2015 Fiscal Year Annual Research Report
液体メニスカスによる卵膜保護が可能とする魚卵の冷凍保存の実現
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15H03933
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Research Institution | Kyushu Institute of Technology |
Principal Investigator |
鶴田 隆治 九州工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30172068)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
谷川 洋文 九州工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (80197524)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 凍結保存 / 魚卵 / 液体メニスカス / 脱水冷凍 / 凍害防御剤 / 孵化 |
Outline of Annual Research Achievements |
実現困難とされている魚卵の凍結保存を可能とすべく,卵膜の親水性を利用して液体メニスカスにより外表面を包み,緩慢冷却によってこれを粥状に凍結して細胞膜を固定する保護層とし,その後に全体を急冷する新たな凍結保存法を提案する.メニスカス溶液にはトレハロース水溶液などの細胞膜保護物質を用い,冷凍前に常温での脱水処理をあわせて施すことにより,魚卵内外での氷晶生成による機械的ストレスを抑制することが狙いである. 平成27年度は,魚卵としてめだか卵を選定し,メニスカス形成のための基盤の選定,凍結前の事前脱水処理の検証,外部溶液の種類・濃度の検討,そして実際の冷却と解凍による孵化の検証を行った. まず,メニスカスを形成する基盤として,ステンレス板,ポーラスシリコン,Cytopを塗布したシリコン基盤を用い,卵を覆う最小液量を評価し,Cytop塗布シリコン面が2μLと最も少ない量で卵全体を薄く覆うことができたため,メニスカスとして最適と評価した.次いで,事前脱水量の評価を行ったところ,15%の脱水までは孵化率100%であるが,20%以上に脱水すると孵化率が低下したため,めだか卵に対する事前脱水量は15%と決定した.外部溶液については,トレハロース水溶液とグリセリン水溶液について孵化率を評価した結果,孵化率が100%となる25%トレハロース水溶液が最適であることがわかった. 以上の準備の下,-3°Cまでの緩慢冷却後に植氷によるメニスカス凍結を行った後,液体窒素を用いた急冷による卵内凍結を行った.毎分5°Cで昇温解凍したところ,孵化を実現するまでには至らなかった.やはり卵内への凍害防御剤の導入が必要と推察し,5%濃度グリセリンを卵内に注入して,凍結実験を行うこととした.しかしながら,課題も多く,以降の検討は次年度に行うこととした.なお,メニスカス凍結までの過程では,卵の機能は保たれており,孵化することが確認できている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の目標は,めだか卵の冷凍保存を実現することであり,初年度においてはこれを実現するまでには至っていない.ただ,これは想定した結果であり,目的を達成するために損傷の原因を特定し,その解決策を見出していくことが学術的にも意味のある成果につながると考えている. 平成27年度では,メニスカスを形成する基盤,予備脱水量,そしてメニスカス溶液の種類と濃度を決定し,その選択がめだか卵の生命機能に何も影響を及ぼすことのないことを確認できている.すなわち,100%の孵化率を得ている.また,最初の緩慢冷却と-3°Cにおけるメニスカス凍結を行うプロセスにおいては生命機能は維持できており,これまた孵化することを確認している.つまり,メニスカス凍結後の冷却による卵内凍結とその後の解凍において損傷が生じることが特定できたことになる. そこで,まず卵内凍結による損傷発生を抑えることを第一に考え,メニスカス凍結後にマイクロインジェクションにより凍害防御剤としてのグリセリン水溶液を注入することを開始している.ただし,注入針のサイズが大きすぎるようで,凍結したメニスカス膜が力学的安定性を保持して良い効果をもたらすものの,注入孔による損傷と防御剤の注入量についての検討が必要なことが明らかとなっている. 以上のように,損傷の発生内容が明らかになりつつあることを考え,おおむね順調に進行していると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度の研究により,メニスカス凍結後に続く急速冷却による卵内凍結,そしてその後の解凍過程において損傷が生じることが特定できた.そこで,平成28年度は,卵内凍結と解凍とのどちらにおいて致命的な損傷が生じているのかを検証する. そのために,まず卵内凍結に注目し,哺乳類等のエンブリオに有効な操作となっている,グリセリンに代表される凍害防御剤の卵内への注入を行って,発生する氷晶の形態観察とあわせて孵化率を調べる.具体的には,マイクロマニュピュレーターの先端に注入針を装着し,メニスカス凍結によって力学的に保持された卵膜を通してグリセリン水溶液を穿孔注入する.その注入量による卵内凍結挙動の変化を調べるため,卵内氷晶形成状況の顕微鏡観察を通して,氷晶サイズと損傷との関連を,冷却速度,卵内凍結温度などを評価して実施する. なお,解凍操作が生存率に及ぼす影響は冷凍に匹敵するほど重要であり,イクラの場合には15℃の室温解凍よりも5℃の冷蔵庫内での緩慢解凍の方が形状保存割合が高くなるという結果を得ている.解凍中の再結晶化と膜を通しての水分再吸収との関連もあり,解凍条件は物理化学的にも極めて重要であると認識しているが,その作用機序は明確にはなっていない.そこで,膜の保護と厚い卵膜を通しての脱水と水分再吸収といった水分挙動に特に注目した上で,孵化に結び付けたいと考えている.
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Research Products
(3 results)