2016 Fiscal Year Annual Research Report
大規模ネットワーク化系のための制御論的セキュリティ対策の確立
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15H04020
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
石井 秀明 東京工業大学, 情報理工学院, 准教授 (50376612)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 制御工学 / ネットワーク化制御 / サイバーセキュリティ / マルチエージェント系 / 分散アルゴリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,ネットワーク化された大規模制御系に対するサイバー攻撃とその情報セキュリティ対策を制御理論の観点に基づいて考える.昨年度に引き続き,エージェント系の合意問題において一部エージェントが異常に振舞う場合やその応用の研究を進めた.また,エージェント系に関する情報が匿名性を持つ場合の状態推定,およびジャミング攻撃を受ける無線通信を介したネットワーク化制御系の安定性解析も並行して研究した.主な結果は以下の4つにまとめられる. ① レジリエントな合意アルゴリズムを構築した.ここでは一部の悪意のあるエージェントが正常なエージェントの合意を妨害すべく行動する.正常エージェントは近傍の情報の内,非常に大きな値もしくは小さな値を外れ値として無視する単純なアルゴリズムを実装した.とくにエージェントの持つ値が整数値の場合について,時間遅れを伴う場合を扱った. ② 上記のレジリエントな合意アルゴリズムを応用する形で,無線センサネットワークにおける時刻同期問題を考えた.異常な振舞いをする時計を持つセンサノードが含まれる場合にも,影響を受けずに同期を達成する手法を開発した. ③ 無線通信を介した線形制御システムに対して,ジャミング攻撃が行われた場合の安定性解析を考えた.攻撃に要する消費エネルギーに制約を設け,また正常時にも生じるデータ損失を考慮した.攻撃パターンが無数にあるため,解析に必要な計算効率が問題となるが,従来法よりも精度の高い手法を開発した. 主に理論研究を進めたが,有効性の検証はシミュレーション実験を通じて行った.今年度は以上の結果の一部を American Control Conf. (6月,Boston),IFAC Workshop NecSys (9月,東京),IEEE Conf. on Decision and Control (12月,Las Vegas)等で発表した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度も大規模なネットワーク化システムに関して,攻撃による異常情報や通信遮断,もしくは匿名性に起因する情報欠落が含まれる場合について,広く研究を進めることができた.上記の研究実績で挙げた課題①~③の研究結果は,いずれも本研究で目指す方向に 沿ったものである.次年度に取り組むべき課題が多く残されており,新たな発展が期待される. 研究計画に挙げたセンサネットワーク構築については,当初予定していた実機実験に代え,高精度な数値実験環境の作成を進めた.これは本研究室で開発した数値計算ソフト Matlab と通信シミュレータ QualNet の連成シミュレーション環境を発展させたもので,グラフィカルなシステム開発ツールである Simulink に移植して実現した.とくにセンサネットワークのように多数のデバイスから成るシステムをシミュレートする場合に有用であり,時刻同期の例で有効性を確認した. また,ネットワーク化制御に関する基礎的な課題についても興味深い成果を得ている. ④ 制御対象に不確かさが含まれる場合に,通信の削減を実現する量子化制御手法についても,継続して検討し,新たな成果を得た.信号値を離散化する量子化器が持つ粗さは通信量を左右する指標となるが,通信中にデータ損失も起きうる状況下で,安定化を実現する量子化器として最も粗いものを解析的に導出した. ⑤ 情報理論に基づくネットワーク制御系の解析手法に関する研究がまとまり,集大成となる研究書が出版された.その一部は本研究課題の中で進められたものである.情報理論におけるエントロピーを活用することで,非線形システムの解析が容易になることが知られる.本研究では,制御理論における古典的な結果であるボードの定理を通信路を含む場合に拡張し,通信量を特徴づける新たな情報論的な測度 blurredness を導入した.
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Strategy for Future Research Activity |
これまで発展させてきた大規模システムに対するサイバーセキュリティ対策に関する研究の方向性を強化するとともに,新たな研究課題にも取り組む.上記の研究実績で挙げた課題については継続して検討する.並行して,よりセキュリティレベルが高い,効率的なアルゴリズム構築やその解析を行う. 1. 理論構築:(1-A):レジリエントな合意:計算・通信量の低減化 ③ 目的の緩和:分散アルゴリズムの構成が難しい問題設定については,目的を厳密な合意から緩和する方向で検討する.一定の誤差範囲での近似的な合意や,集中的にブロードキャストされる信号の使用等を検討する.とくに悪意性の高い故障・攻撃を想定したビザンチン合意に対する技法を活用する.本年度は,とくに分散最適化問題をターゲットに研究を進める. (1-B):レジリエントな合意:より高次のエージェント系へ:② 状態合意のアルゴリズム:高次のエージェント系では,合意の概念を一般化した状態合意を扱う必要がある.異常エージェントが含まれる場合に達成可能な追従性能を解析する. (3) 改ざん情報に基づくネットワーク化制御:② 制御情報の改ざん:観測・制御の信号に対する改ざんにレジリエントな制御器を導出する.ロバスト統計に基づく信号処理の技法を適用し,外れ値を除外するカルマンフィルタの利用等を考える.従来の耐故障制御の分野の手法と性能比較を行う. (4) 統一的な枠組みの構築:これまでエージェント系と通信制約下の制御系に関して培ってきたセキュリティの知見と成果を動員し,総合的な見地から,レジリエントな制御・推定手法のクラスを求める. 研究発表:理論的な成果については,前年度と同様の会議での発表を行う.また,研究成果をまとめ,論文誌への投稿を行う.
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Research Products
(23 results)