2016 Fiscal Year Annual Research Report
物理的ストレス耐性の生理機構に基づいた沈水植物管理のための分布予測モデルの開発
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15H04045
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
浅枝 隆 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (40134332)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
ラシッド エムディハルノオル 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (80643262)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 沈水植物 / 流動ストレス / 貧酸素ストレス / 水質管理 / 水域生態系 |
Outline of Annual Research Achievements |
H28年度は、室内実験にて、貧酸素ストレス及び硫化水素に対するストレス把握、水温及びアレロパシーに対するストレス把握、暗所の継続時間の影響の把握を行った。また、野外の河川において流速と強光の影響についての観測を行った。 貧酸素及び硫化水素の影響把握には、オオカナダモとコカナダモを用い、昨年度用いたグルコース添加による方法の他、窒素ガスによる曝気による方法を用いて貧酸素状態での培養実験を行った。結果、有意な差は得られず、グルコース添加による方法においても問題ないことがわかった。次に、NaHSを加えることで異なる濃度の硫化水素を発生させ、通常の条件、貧酸素に硫化水素が加わった条件での培養結果を比較することで、その影響把握を行った。培養したサンプルに対し、生長量や光合成色素の他に、過酸化水素濃度、カタラーゼ、ペルオキシダーゼ、プロリン、アミノ酸及び水溶性炭素及びデンプンの分析を行った。その結果、生長量は硫化水素濃度の増加と共に減少するものの、特にコカナダモにおいて激しく、水溶性炭素、デンプン量共、過酸化水素濃度と共に増加することがわかった。 水温及びアレロパシーストレスの把握においては、コカナダモ、エビモ、セキショウモを用い、25,30,35°の水温で、単独種のみ、もしくは混合系として培養、過酸化水素、抗酸化酵素、光合成色素等の測定を行った。その結果、過酸化水素濃度は、どの種においても水温の上昇と共にほぼ平行に増加、更に、コカナダモ、セキショウモについては単独系の方が低い値を、コカナダモにおいてはそうした傾向がみられなかった。この結果より、アレロパシーストレスは、コカナダモにおいて低く、他の種で高いこと、また、過酸化水素濃度を用いることで、水温増加に対するストレスとアレロパシーストレスが分離できることが明らかになった。 同様な結果は、乱流強度、強光ストレスに関し、野外観測でも見られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの進捗状況をまとめると以下のようになる。 沈水植物の生育場所は様々な環境条件の下に定まっていると考えられる。しかしながら、実際の水域では、その種が生育していること、もしくは生育していないことの理由を裏付ける手段はない。そのため、その先に位置付けられる、沈水植物の制御は不可能である。本研究では、環境ストレスの低い場所が生育場所となるという仮説の下、環境ストレスの発現因子としての活性酸素濃度を測定することで、植物自体の受けている様々なストレス強度を分離することを試みている。活性酸素としてはいくつか存在するが、ここでは比較的安定で他の活性酸素からも生成されることから、過酸化水素を用いて、その検証を行っている。まず、沈水植物にとって最も大きなストレス条件となり得る流速のストレスについて、乱流のみの条件、平均流の存在下で、いくつかの種の培養実験を行うことで、乱流強度に対して、ほぼ一義的に過酸化水素濃度が増加することを見出した。次に、水域では極めて重要になる、貧酸素ストレス及び硫化水素存在下での培養実験を行い、過酸化水素濃度に及ぼされる影響について調べた。その結果、硫化水素濃度に対し、ほぼ一義的に過酸化水素濃度が増加することが示され、これにおいても過酸化水素濃度としての指標としての有用性が示された。さらに、培養水温を変え、さらに、いくつかの種を単独、もしくは、混合系で培養、水温とアレロパシーが同時に働く下での過酸化水素濃度の変化を調べた。その結果、単独系、混合系に関わらず、水温の上昇に対し、過酸化水素濃度は同じ率で上昇、さらに、競合において強い種と弱い種との間で、混合系で培養した場合と単独系で培養した場合の過酸化水素濃度に一定の上下関係が見られた。以上より、異なるストレスの強度の分離の可能性もでてきた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの室内実験の結果、流動ストレス、貧酸素や硫化水素によるストレス、更に、水温やアレロパシーによるストレス、いずれをとっても過酸化水素濃度を測定することでそれぞれのストレスレベルを得ることが可能となった。また、複合ストレス下で、それぞれのストレスによる影響が、過酸化水素濃度に加算的に表れることが得られた。今後はこうした知見を基に、以下の研究に発展させていく。 ある種がある場所に生育している場合、その種にとって生育可能な条件にあることと同時に、他の競合する種よりも有利な条件下にあることが必要である。これまでの研究では、過酸化水素濃度は種類によらず一定の関係で得られている。まずは、追加実験で、この傾向の恒常性の検証を行い、より確かなものとし、次に、競合する種に対して、同様な条件下で培養、分析し、過酸化水素濃度の相対的な上下で競争能力の強弱の判定が可能かどうかについて調べる。 室内実験においては、同一の条件で長時間にわたる培養が可能なため、極めて明瞭な結果が得られているが、野外においては生育段階で、様々に条件が変化することから、こうした結果がそのまま利用できるかどうかは不明である。そのため、まず、室内実験において、条件を時間的に変化させて培養を行うことで、環境条件の変化が過酸化水素濃度の変化になって表れるまでの時間の把握を行う。次に、実際の河川や湖沼で、流速や強光条件等の環境ストレス条件の観測を行い、さらに植物サンプルの採取を行うことで、野外における関係の整理を行う。 以上の基礎的な研究結果を基に、野外への実装を考える。実装の場所としては、近年、大量の沈水植物が繁茂、水産や河川環境に多大な影響を及ぼしている、中国地方の河川や宍道湖を考える。実際の現場において、ストレス因子や植物のサンプルを用いて分析、結果を得ることで、繁茂の理由の解明を行う。それらの結果を基に、対策を考案する。
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