2016 Fiscal Year Annual Research Report
Dark-field electron holography studies on strain and magnetization: methodology and applications to magnetic materials
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15H04112
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
村上 恭和 九州大学, 工学研究院, 教授 (30281992)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 歪解析 / 磁気イメージング / 磁性材料 / 電子顕微鏡 / 電子線ホログラフィー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、従来磁性材料には適用できなかった暗視野電子線ホログラフィーの実験・解析技術を高度化し、電磁場による電子位相変化と、結晶格子の歪による幾何学的な位相変化を分離できる新技術の構築と、同手法を用いたナノ領域の多面的な解析(電磁場と歪の同時解析)の推進を図るものである。 初年度(平成27年度)は、本質的に像強度に乏しい暗視野電子線ホログラムの像質を向上させるためにデータ収集条件の最適化に取り組んだ。また結晶性試料の解析に際して考慮が必要となる動力学的回折効果についても評価・検討を行い、消衰距離の長い反射を利用することが暗視野電子線ホログラフィーにとって有効なことを実証した。 これらの研究を踏まえて、平成28年度は基本技術の更なる高度化を進めるとともに、暗視野電子線ホログラフィーによる実試料の解析に着手した。まず最適化熱処理を施したNd-Fe-B系焼結磁石を用いて、良質な暗視野電子線ホログラムの取得とそのデータ解析を進めて、歪情報と磁場情報を正確に分離することに成功した。この解析を通して、同磁石に存在する様々なタイプの結晶粒界、或いは粒界三重点近傍における歪分布を網羅的に明らかにすることができた。これに加えてNi基ホイスラー合金に形成される界面の解析を試みた。界面領域で想定される歪が非常に小さく、精緻な議論こそ難しい観測対象ではあるが、界面領域での濃度変調や原子配列の不規則化など、実質的な格子定数の局所変化に関わる有益な情報を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
以下の理由から、本研究はおおむね順調に進んでいるものと判断される。 前述の通り、平成28年度は暗視野電子線ホログラムを材料工学の重要課題に応用展開することを主要な目的に掲げた。具体的にはNd-Fe-B焼結磁石を主たる研究対象とした。Nd-Fe-B磁石は発見依頼30年以上経過しているものの、現在でも最も強力な磁石として学術的にも工業的にも重要な位置づけにある。一方この数年来、ディスプロシウムなどの希少添加元素を使わずにNd-Fe-B磁石の性能強化を図る大規模な研究プロジェクトが進んでおり、焼結磁石の研究分野は高度に活性化されている。このような研究の潮流のなかで、焼結磁石の結晶粒界、或いは粒界三重点などの構造的特異点が示す歪と磁性の関係を明らかにすることが重要となった。本研究では、暗視野電子線ホログラフィーをこの問題に適用した。精緻な電子顕微鏡解析と暗視野電子線ホログラフィーを併用することで、Nd-Fe-B焼結磁石が示す様々なタイプの結晶粒界を系統的に調査した。その結果、最も大きな歪を示す箇所はNd2Fe14B相と金属Nd相の界面であることが特定され、またその歪量は1%程度であることを明らかにした。この結果は、Nd2Fe14B相と結晶磁気異方性の関係を調べる実験研究・理論研究の双方に反映し得る本質的な情報である。研究成果はApplied Physics Letters誌で発表しており、評価を得ている。もう一つの研究対象して着目したNi基ホイスラー合金に関しても、例えば逆位相境界近傍における合金組成の変調や不規則化など、格子歪を誘発する結果を観測した。ごく微弱な格子歪の直接観察は必ずしも十分に達成されていないが、学術的に深い考察を実施することができた。以上の点から、本年度の研究目標は十分に達成されている。
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Strategy for Future Research Activity |
上述したNd-Fe-B磁石の実験・解析を通して、本研究がねらいと定めた暗視野電子線ホログラフィーによる磁場情報と格子歪情報の分離については、目的を達成できたものと言える。一方、析出物が材料機能の発現に及ぼす影響は前述のNd-Fe-B磁石に限らず、他の金属材料でも想定される。この点を踏まえて、次年度はMn基合金が示す大きな保磁力と微細析出物の関係を調査する。Mn-Ga-Cu系合金は飽和磁化が小さいものの、室温で2T程度の非常に大きな保磁力を示す。その保磁力はNd-Fe-B商用磁石が示す値よりも大きい。従ってMn基合金の詳細な解析は、今後新しい磁石材料を探索するうえで重要な知見を与えるものと考えられる。これに加えて、次年度は酸化物試料であるVO2を用いて暗視野電子線ホログラフィーの研究を試みる。本年度までの研究により、磁場情報と歪情報を正確に分離することに成功した。しかし多くの材料では(特に非金属の材料系では)電子線の照射に伴い試料の帯電が誘発され、必要とする電磁場情報に複雑なバックグラウンドを与えることとなる。このような帯電由来の不要情報を抑えるために、本研究ではVO2薄膜をモデル試料として利用する。VO2は室温近傍(340K程度)で金属-絶縁体の相変態を示すため、帯電状態の観測とその抑制を行ううえで適した試料と言える。以上のような試料を用いた実験・解析により、暗視野電子線ホログラフィーを用いた局所領域の電磁場解析と歪解析の高度化を図る。
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