2016 Fiscal Year Annual Research Report
架橋酵素による自然免疫の応答制御と腸内細菌の維持機構
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15H04353
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
川畑 俊一郎 九州大学, 理学研究院, 教授 (90183037)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | トランスグルタミナーゼ / 腸内細菌 / ノックダウン / キイロショウジョウバエ / 脂質修飾 / ミリストイル化 / パルミトイル化 / タンパク質架橋 |
Outline of Annual Research Achievements |
キイロショウジョウバエの腸管には、10~50種、約500万個の腸内細菌が常在しており、宿主の自然免疫系により管理されているが、腸内細菌に対する宿主の免疫寛容の分子機構には不明な点が多い。当研究室では、トランスグルタミナーゼ(TG)が翅や腹部といった外骨格の形成に関与するとともに、腸内細菌に対する免疫応答の制御を担っていることを見出した。タンパク質間の架橋反応は、皮膚の角質化や血液凝固など哺乳類にとって必須の反応である。この反応はTGが触媒しており、リジン残基とグルタミン残基の側鎖をイソペプチド結合で架橋する。 哺乳類には8種のTGアイソザイムが存在するが、ハエTGは1種のTG遺伝子でコードされている。今回、次世代シークエンサーによりショウジョウバエの腸内細菌の遺伝子解析を行った。その結果、野生型とTG遺伝子をノックダウンしたハエでは腸内細菌叢が大きく異なっていることが判明した。また、腸管から単離した4種の細菌株(SK1~SK4)の抗菌ペプチドと活性酸素に対する耐性を比較するとともに、SK1~SK4を腸管に取り込ませたノトバイオートハエ(gnotobiotic flies)の性質を解析した。さらに、無菌バエにSK1とSK4を1:1の比率で感染させると菌を単独で感染させたハエよりも短命となることが判明した。常在菌がハエの腸管内の環境に順応すると、試験管での培養した際の菌とは異なる性質を示すことが明らかとなった。 一方、ハエTG遺伝子は選択的スプライシングにより、TG-AとTG-Bの2種のアイソザイムを産生していた。TG-A、TG-BともにN-末端の分泌シグナル配列はなく、TG-Bはサイトソルに主に局在するが、TG-Aは、ミリストイル化とパルミトイル化の2種類の脂質修飾を受けて細胞膜に輸送され、刺激に応答してエキソソームを介して分泌されることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
キイロショウジョウバエは腸内細菌との共生(Symbiosis)とその異常(Dysbiosis)を研究する上で優れたモデル系である。私たちは腸管上皮のトランスグルタミナーゼ(TG)が、抗菌ペプチド産生を担うNF-κB様転写因子を化学架橋することにより阻害し、腸内細菌に対する過剰な免疫応答を抑制することでSymbiosis関係を生み出していることを見出した。次世代シークエンサーを用いて、腸内細菌叢の16S rRNA(V4領域)の解析を行った。羽化後0.5日目の野生型ハエではアセトバクター属が92%を占め、残り8.0%をプロビデンシア属が占めた。一方、TGノックダウンハエでは、全体の77%がプロビデンシア属、22%がアセトバクター属であった。また、それらの菌株を無菌バエに移植したノトバイオートハエの作成に成功した。そのハエを詳細に解析して、Journal of Biological Chemistryに原著論文として2016年11月号に掲載できたことは、評価に値すると考える。実際に、野生型のショウジョウバエの腸内細菌叢が酢酸菌属でほとんど占められている事実は、推定外の驚くべきことであった。 具体的には、腸管から単離した4種の細菌株(SK1~SK4)の抗菌ペプチドと活性酸素に対する耐性を比較するとともに、SK1~SK4を腸管に取り込ませたノトバイオートハエ(gnotobiotic flies)の性質を解析した。さらに、無菌バエにSK1とSK4を1:1の比率で感染させると菌を単独で感染させたハエよりも短命となることが判明した。これらの実験結果より、常在菌がハエの腸管内の環境に順応すると、試験管での培養した際の菌とは異なる性質を示すことが明らかとなった。ただし、短命の原因と推定された活性酸素の誘導とノトバイオートハエに定着した細菌との関連性に不明な点が残っており、今後の課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、まずハエの囲食膜形成に関わるTGの構造と機能解明を進める。具体的には(1)囲食膜のTG基質として同定したペリトロフィン15bをノックダウンして、囲食膜形成におよぼす影響を顕微鏡観察により調べるとともに、緑膿菌や昆虫に対する強毒性菌を経口投与して生存率を野生型と比較する。(2)予備実験により、緑膿菌や強毒性菌の培地中に毒素成分が存在することが判明している。そこで、毒素成分の精製タンパク質、あるいは組換え体を調製して経口投与し、TG基質のノックダウンハエに対する生存率を野生型と比較する。(3)野生型では、TGによりドロソクリスタリンやペリトロフィン15bが架橋され、囲食膜を強固にしている可能性が推定される。そこで、ペリトロフィン15bの架橋化体の毒素プロテアーゼに対する感受性を調べる。 次にTGの腸管上皮細胞からの分泌機構の解明を進める。具体的には(1)N-ミリストイル化転移酵素のノックダウンを行って、N-ミリストイル化がおよぼす影響を調べる。組織特異的、あるいは時期特異的にノックダウンも行う。ノックダウン後に、組織や体液を回収して、TG-AやTG-B特異的抗体によりウェスタンブロットを行い、野生型と比較することによって、TG-AやTG-Bの局在性の変化を調べる。(2)ハエS2細胞にTG-AやTG-Bの遺伝子を導入して細胞内局在性を調べる。また、TG-A遺伝子を導入したS2細胞のN-ミリストイル化転移酵素のノックダウンを細胞レベルで行い、局在性の変化を調べる。(3)無細胞タンパク質合成系を用いて、TG-Aに標識ミリスチン酸が取り込まれかを調べる。また、TG-Aのミリストイル化シグナル配列の欠失体やアミノ酸置換体を調製して、ミリストイル化におよぼす影響を調べる。(4)ハエの感染時におけるTG-A、TG-Bの組織発現や細胞内局在性の変化を調べる。
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Research Products
(21 results)