2015 Fiscal Year Annual Research Report
全酵素同定に基づくクロロフィル代謝の多面的・総合的研究
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15H04381
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
田中 歩 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (10197402)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 色素体機能 / 光合成 / クロロフィル / 代謝 |
Outline of Annual Research Achievements |
クロロフィル分解の最初の反応を担うMg-脱離酵素は、クロロフィル分解経路で最も重要な役割を担っていると考えられている。しかし、この酵素は未同定であり、信頼できる活性も検出できなかった。平成27年度の最も大きな成果はこの酵素の同定に成功したことである。本研究成果から、Mg-脱離反応は従来指摘されてきたように酸性条件などで自然に起こるものではなく、酵素によって触媒される反応であることがわかった。これによって、主要なクロロフィル分解酵素は全て同定され、代謝系が完成したことになる。 Mg-脱離酵素(SGR)は、シロイヌナズナでは3つの遺伝子(SGR1、SGR2、SGR-Like)が知られており、それらの発現はそれぞれ異なった制御を受けている。基質特性も異なり、SGR1とSGR2はクロロフィルaだけを触媒したが、SGR-Likeはクロロフィルaとクロロフィリドaを基質にすることができた。また3つのSGRは全て、クロロフィルbを基質にすることはできなかった。葉緑体では、クロロフィルはタンパク質と会合しクロロフィル-タンパク質複合体を形成しているが、SGRは複合体の中のクロロフィルも基質にすることができた。このことによって、SGRが光化学系の分解の中心的な役割を担っていることが予想された。さらに我々は、クラミドモナスの挿入変異株をスクリーニングすることで、sgr欠損株を単離することに成功した。これからの解析に期待ができる。 クロロフィル分解中間体の一つであるフェオフォルビドaが細胞死を引き起こすことは以前に報告した。この細胞死は、フェオフォルビドaを基質にするPaOの変異株やクロロフィルb過剰蓄積株から明らかになった。しかし、クロロフィルb過剰蓄積株にNYC1の変異を導入すると細胞死が抑制された。詳しい機構はよくわからないが、おそらくクロロフィルbの代謝と細胞死が関連していると予想している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は多くの課題が計画されていたが、その中でもMg-脱離酵素の同定とクロロフィルc合成酵素の同定が最も重要な課題であり、この課題に重点的に取り組んだ。その結果Mg-脱離酵素に関しては、その遺伝子を同定し、in vitroにおいてはじめて信頼できるMg-脱離活性を検出することに成功した。また、クラミドモナスの変異株の作製にも成功したので、今後のSGRの研究の発展の基盤を作ることができた。このように、Mg-脱離酵素の同定に関しては、計画を上回る成果を挙げることに成功した。 一方、クロロフィルc合成酵素に関しては進展が見られなかった。バイオインフォマティクスを利用して、クロロフィルc酵素の候補遺伝子の探索を行った結果、極めて有望な遺伝子を見出すことに成功した。しかしながら、この遺伝子の発現抑制株を珪藻で作成し、クロロフィルcの蓄積量を調べたが変化がなかった。また組み換えタンパク質を作製し、活性の測定を試みたが、残念ながら活性を見出すことはできなかった。これらの失敗は技術的な問題なのか、候補遺伝子が間違っていたのか、現在のところ不明である。この課題は大変重要であるが、今後の方針等はいまだ決めかねている。 その他の課題の一つであるクロロフィル代謝の多機能性に関しては、光化学系IIの形成とMg-脱離酵素の関係などが、予備的であるが進展した。 このように、期待を上回る大きな進展を見せた課題がある一方、重点的な課題であるにも関わらず進展が見られなかった課題もあった。その他の課題に関してはある程度の進展が見られた。進展が見られなかった課題(クロロフィルc合成)に関しては戦略も含め再検討する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
Mg-脱離酵素に関しては、遺伝子が同定されたので、これを基盤としてさらに大きく進展させる予定である。具体的には次の二つの方向で計画している。一つはMg-脱離酵素と老化の関係である。申請者はMg-脱離酵素は単にクロロフィル分解の最初の酵素ではなく、老化そのものを制御していると考えている。予備的実験において、SGR(Mg-脱離酵素)を一過的に発現させた植物で、葉緑体の構造や遺伝子の発現パターンが老化過程と極めてよく似ていることが示唆された。おそらく、SGRの働きで、何らかの葉緑体シグナルが働き、老化関連遺伝子の発現が誘導されると考えている。SGRを手掛かりに、クロロフィル分解が老化の最終ステップではなく、老化そのものの制御を行う重要な反応過程であることを証明する。もう一つは、Mg-脱離酵素が光化学系IIの形成にどのように関与するかである。Mg-脱離酵素は、クロロフィルからMgを引き抜きフェオフィチンを作る酵素である。フェオフィチンは光化学系IIの重要な構成成分であるので、SGRは何らかの方法で光化学系IIの形成と関係するはずである。クラミドモナスを用いてこの点を明らかにする。 クロロフィルc合成に関しては、残念ながら現状では明確な方針を持つことができない。しかし、この課題は多くの研究者が期待しているところなので、取り組みを続けたい。さしあたって、バイオインフォマティクスによる候補遺伝子の再検討が必要と考えている。 その他の課題に関しては、申請書の計画通り進めていきたいと考えている。
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Research Products
(14 results)