2016 Fiscal Year Annual Research Report
Comprehensive study of chlorophyll metabolism based on enzyme identification
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15H04381
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
田中 歩 北海道大学, 低温科学研究所, 特任教授 (10197402)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 色素体機能 / 光合成 / クロロフィル / 代謝 |
Outline of Annual Research Achievements |
Mg-脱離酵素SGRはクロロフィルから中心金属のMgを引き抜き、フェオフィチンに転換する酵素である。この反応は老化時のクロロフィル分解の最初の反応を担う酵素である。一方、フェオフィチンは光化学系IIに存在し、最初の電化分離を担う分子であるため、SGRは光化学系IIの形成にも関与していることが考えられる。そこで、クラミドモナスのSGR欠損株を複数単離した。この株は、光化学系IIの活性を示すFv/Fm比が低い値を示した。さらに、BN-PSGEで光化学系の蓄積を調べたところ、光化学系IやLHCは野生型と同じ様に蓄積していたが、光化学系IIの蓄積は極めて僅かであった。また、光化学系IIを形成するD1, D2, CP43やCP47の蓄積も低下していた。一方、クロロフィル分解はSGRの欠損株においても通常通りに進行した。これらのことから、クラミドモナスにおいて、SGRはクロロフィルの分解ではなく、光化学系IIの形成に関与していると結論した。 また、シロイヌナズナのSGRの機能をより詳細に調べるため、SGRの変異株を作成した。シロイヌナズナでは、複数のSGR遺伝子(SGR1、SGR2、SGRL)が存在するため、まずこれらの3重変異体(sgr1sgr2sgrL)を作成した。sgr1sgr2sgrLでは、光化学系IIは正常に形成されたが、クロロフィルの分解はほぼ完全に抑制された。このことから、シロイヌナズナではSGRはクロロフィル分解に関与し、光化学系IIの形成には関与していないことが示された。 以上のことから、SGRは緑藻とストレプト植物では機能が異なっていることを示している。また、このことは、SGR以外にもMg-脱離酵素が存在していることを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画していたクロロフィルc合成酵素は残念ながら単離できなかった。この酵素の単離には、このプロジェクトで提案した以外の戦略が必要と思われるが、現在のところアイデアがない状態である。 SGRの新しい機能に関しては大きな進展が得られた。従来SGRはクロロフィル分解だけに関与すると考えられてきたが、光化学系IIの形成という新しい機能を解明できたことは重要である。光化学系の形成は近年多くの研究者が興味を持ち、大きく進展してきた分野である。その結果、様々な会合因子が同定され、それらの機能が次第に明らかになってきた。しかし、光化学系IIの最も重要な分子の一つであるフェオフィチンの合成が光化学系IIの形成のどのような役割を果たすかは未知の課題であった。フェオフィチンを供給する因子が不明であったため、光化学系内でクロロフィルがフェオフィチンに転換されるとの議論もされていた。この点を解明できたのは大きな進歩である。 一方、具体的にはどのような分子機構でSGRが光化学系IIにフェオフィチンを渡すのかは不明なままである。もう一段の進展が必要であろう。また、SGRの完全変異株でも僅かではあるが、光化学系IIが形成された。これは、他にもフェオフィチンの供給機構があることを示しているが、残念ながらその同定には至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
Mg-脱離酵素の生理的機能を知るには、その酵素的な諸性質を明らかにする必要がある。最も求められているものは、その触媒機構の解明である。この解明には、高い活性が得られる組み換えSGRを得ることが必須である。現在の活性の程度では、例えばアミノ酸置換の影響を信頼性高く検出することは難しい。まず、活性条件の開発を行う。 研究を進めるなかで、SGR以外にもMg-脱離酵素が存在することが明らかになってきた。この酵素の同定は、シロイヌナズナやクラミドモナスなど緑色植物におけるクロロフィル分解と光化学系IIの形成機構の理解に必須である。この酵素の単離に向けた計画が必要であろう。 一方、SGRの老化に対する役割の解析は、植物の老化を知る上でも重要である。この点のより詳細な解明が必要であるので、これに取り組む。 本研究の目的の一つにクロロフィル代謝の進化を挙げている。光合成生物においては緑色植物にしかないSGRがどのようにして誕生したのかを解明する。このためにも、SGRのホモログの解析を行う予定である。
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Research Products
(19 results)