2015 Fiscal Year Annual Research Report
Spatial structure and mechanisms of plant responses to light
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15H04389
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
長谷 あきら 京都大学, 理学研究科, 教授 (40183082)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | フィトクロム / 遺伝子発現制御 / 長距離シグナル / ネットワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
固着生活を営む植物は、その生き方に適した環境応答能を身につけている。その重要な特徴として、個々の細胞が高い環境応答能をもつことが挙げられる。本研究では、この個々の細胞が示す応答が個体応答へと統合される仕組みについて、分子生物学的、分子遺伝学的な手法を用いて明らかにすることを目指す。本年度の成果は以下の通りである。 シロイヌナズナの芽生えより、主に葉肉と表皮組織よりなり維管束を含まない微細組織片と、維管束を含む組織片を調製し、従来法で調製した単離維管束とともに、組織マーカー遺伝子や光応答遺伝子の発現レベルをqPCR法により確認した。また、ハクサイ芽生えのフック構造について、湾曲の内側、外側の組織片を別々に調整し、同様の解析を行った。これにより、芽生えの異なる領域の遺伝子発現を精度よく測定するための実験条件を確立した。 また、避陰応答による胚軸伸長促進について、子葉から胚軸へ伝わる長距離シグナルの正体を明らかにするため、すでに行われていた子葉と胚軸の遺伝子発現応答の網羅的解析結果をもとに検討したが、子葉における長距離シグナル生成と直接関連しそうなものは見いだされなかった。一方、胚軸における解析の結果から、いくつかの遺伝子の発現がこの長距離シグナルの制御を受けている可能性が示唆された。 さらに、子葉内での組織間シグナル伝達を解析するため、すでに維管束で光応答することが知られているFT遺伝子の発現について解析したが、1回の光処理では十分な応答が見られず、組織間シグナル伝達を解析するためのターゲット遺伝子としては適当でないことが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、細胞や組織レベルの光応答が個体レベルの光応答にどのように統合されるかを明らかにすることを目指している。この目的にそって、1)器官・組織レベルの光応答マップの作製、2)避陰応答における器官間シグナル伝達機構の解析、3)組織間シグナル伝達の機構の解析を進めた。 1)については、シロイヌナズナ芽生えより子葉と胚軸から微細組織片を調製し、それらの組織片から、効率良くcDNAライブラリーを調製しqPCR法によって、任意の遺伝子の発現を定量できることを示した。また、ハクサイ芽生えのフックの内側と外側の組織についても、同様の技術を開発した。これらの解析を網羅的遺伝子発現解析に拡張することにより、光刺激(陰刺激を含む)に対する植物体の部位毎の応答の違いを包括的に把握することが可能になると期待される。 2)については、これまでの解析結果から、シロイヌナズナ芽生えの子葉において、陰刺激後数時間以内に、胚軸へ伝えられる未知の長距離シグナル分子が生成されることが示唆されている。そこで、子葉において過去に行った網羅的遺伝子発現応答の結果を用いて、シグナル生成に関わりそうな遺伝子の応答を探索したが、そのようなものは見いだされなかった。一方、胚軸のデータを解析した結果、未知シグナルを受容して発現が上昇するような遺伝子の候補が幾つか見出されたので、今後は、これらの挙動を解析することで、未知シグナルの性質を明らかにする予定である。 3)については、子葉内での組織間シグナル伝達を解析するため、FT遺伝子に注目した解析を進めたが、比較的弱い応答しか認めらず、組織間シグナル伝達の解析には適当でないことが分かった。この結果を受け、維管束でのシグナル応答の解析を進めるためのターゲット遺伝子をより広く探索するため、RNA-seqによる網羅的解析のための予備実験に着手した。
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Strategy for Future Research Activity |
上に述べた結果を受け、それぞれの項目について以下のようにして研究を進める。 1)器官・組織レベルの光応答マップの作製については、光処理を施した芽生えから調製した微細組織片からcDNAライブラリーを調製する手法が確立できたので、これらの試料についてRNA-seq法による網羅的な遺伝子発現解析を実施し、シロイヌナズナ芽生えの子葉と胚軸で遺伝子発現応答がどのように異なるかを包括的に明らかにする。また、この応答にオーキシンがどのように関わるかを調べるため、オーキシン合成の欠損変異体で同様の解析を行う。光によるフック解消についても、ハクサイを材料に、解消にともないフックの内側と外側の遺伝子発現がどのように変化するかを網羅的に解析する。 2)避陰応答における器官間シグナル伝達機構の解析については、オーキシン合成の欠損変異体を含む網羅的遺伝子発現解析を実施、未知シグナルのターゲット遺伝子候補として、オーキシンに依存せずに光刺激後、数時間かけて発現が上昇するような遺伝子の探索を行う。また、得られた候補遺伝子の応答を指標に、部分照射実験やレーザー穿孔実験を行い、これらの胚軸応答遺伝子の制御機構についての知見を得る。 3)組織間シグナル伝達の機構の解析については、当初考えていたFT遺伝子が解析に適さないことが分かったが、シロイヌナズナの子葉から、主に葉肉と表皮組織よりなり維管束を含まない微細組織片を調製して遺伝子発現解析を行うための手法が確立された。そこで、この技術を用いて、RNA-seq法による解析により、葉肉組織と維管束組織における応答遺伝子を網羅的に明らかにし、両者を比較して当該組織の光応答の特性を明らかにするとともに、組織間シグナル伝達を受ける遺伝子の候補を選別する。
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Research Products
(11 results)