オリゴ糖をシグナルとする多年生植物の相転換機構の解明

2015 Fiscal Year Annual Research Report

• Project/Area Number: 15H04454
• Research Institution: Iwate Biotechnology Research Center
• Principal Investigator: 高橋 秀行 公益財団法人岩手生物工学研究センター, 園芸資源研究部, 主任研究員 (00455247)
• Co-Investigator(Kenkyū-buntansha): 西原 昌宏 公益財団法人岩手生物工学研究センター, 園芸資源研究部, 研究部長 (20390883) ; 金野 尚武 宇都宮大学, 農学部, 准教授 (60549880)
• Project Period (FY): 2015-04-01 – 2018-03-31
• Keywords: 花卉 / 開花 / 休眠 / 成長相転換 / リンドウ

Outline of Annual Research Achievements

オリゴ糖は植物のエネルギー源や細胞成分としての役割が知られているが、相転換シグナルとして働く可能性が見出されている。本研究では、多年生植物であるリンドウをモデルに、オリゴ糖の相転換シグナルとしての作用機序の解明を目指し研究を進めている。本年度は、ゲンチオオリゴ糖を取込ませた越冬芽でメタボローム解析を行ない、特異的に変動する代謝経路を特定した。特に硫黄代謝経路の代謝物に影響が強く見られ、さらに相転換遺伝子の発現にも差が見られたことから萌芽誘導との関連が予想された。また、冬芽形成から萌芽期の越冬芽で相転換遺伝子群の発現挙動を解析したところ、幾つかの遺伝子で相転換期に顕著な発現変動が観察された。これら遺伝子についてリンゴ小球型潜在ウイルスベクターを用いて越冬芽で高発現または発現抑制体を作成し、休眠および萌芽への影響を調査している。
ゲンチオオリゴ糖代謝経路の解明では、ゲンチオビオースを分解するグルコシダーゼとゲンチアノースを分解するインベルターゼをリンドウから精製した。それぞれの酵素について、酵素学的特性を調査した。グルコシダーゼについては、ゲンチオオリゴ糖に対して比較的高い基質特異性があることが示された。これら酵素についてオービトラップ質量分析計を用いて配列情報を獲得し、得られた配列を基に遺伝子発現解析を行なったところ、休眠状態およびオリゴ糖の蓄積と相関のある挙動が観察された。この結果から、これら酵素によるオリゴ糖組成の調節が休眠調節に関与する可能性が見出された。

Current Status of Research Progress

2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.

Reason

本課題では、Ⅰ～Ⅳのサブテーマから、ゲンチオオリゴ糖を介した相転換シグナリングの解明を計画しており、H27年度は、サブテーマI、II、IVについて解析を予定していた。サブテーマIのゲンチオオリゴ糖が調節する代謝・遺伝子発現変動の解明では、ゲンチオオリゴ糖処理した越冬芽でメタボローム解析を実施した。サブテーマIIのゲンチオオリゴ糖と相転換遺伝子の相互作用の解明では、露地栽培リンドウの越冬芽およびゲンチオオリゴ糖処理した越冬芽で相転換遺伝子の挙動を調査した。サブテーマIVのゲンチオオリゴ糖代謝経路の解明では、ゲンチオオリゴ糖分解酵素を精製した。これらは当初の計画通りに実施され、期待通りの結果を得ている。更に解析を進め、代謝および遺伝子解析から得られた情報を統合し、オリゴ糖の作用機構について解明が進むことが期待できる。

Strategy for Future Research Activity

引き続き、サブテーマ毎の計画通りに解析を進める。サブテーマIについては、越冬芽以外の組織においてゲンチオオリゴ糖を経時的に定量し挙動を明らかにする。また、越冬芽およびG2処理サンプルでRNA-seq解析を実施し、得られた情報とメタボローム情報を統合することで、休眠期に特異的に作用する代謝経路および相転換との関与を明らかにする。サブテーマⅡについては、越冬芽以外の組織について相転換遺伝子の解析を開始する。サブテーマⅢについては、ゲンチオビオースに結合する蛋白質を探索し、受容体またはゲンチオビオースを基質とする酵素を獲得する。ゲンチオビオースを固定したカラムは作成済みであり、計画通りに進められる体制は整っている。尚、各サブテーマで得られた遺伝子については形質転換体を随時作成しメタボローム解析を行なうことで、オリゴ糖を中心とした相転換機構を明らかにする。