2016 Fiscal Year Annual Research Report
イネにおけるセロトニン蓄積の抑制機構の解明:アブラムシによる抵抗性の抑制と利用
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15H04462
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Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
手林 慎一 高知大学, 教育研究部自然科学系農学部門, 准教授 (70325405)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
間世田 英明 徳島大学, 大学院生物資源産業学研究部, 准教授 (10372343)
及川 彰 山形大学, 農学部, 准教授 (50442934)
石原 亨 鳥取大学, 農学部, 教授 (80281103)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | イネ / アブラムシ / セロトニン / メタボローム |
Outline of Annual Research Achievements |
オカボノアカアブラムシ(以下アブラムシ)がイネ根に寄生すると誘導抵抗性として褐変が生じる。ところが褐変物質の前駆体であるセロトニンの蓄積が不自然に遅延し、アブラムシの寄生後2~4日間は低い濃度にとどまる。低濃度のセロトニンがアブラムシの生育を促進することを確認したことから、アブラムシはイネの防御反応を抑制することで抵抗性を弱めるばかりか、さらにこの抵抗性物質を逆手にとり自身の増殖に積極的に利用している可能性が示唆された。本研究ではこのアブラムシによるイネの誘導抵抗性を制御する機構を分子生物学的・生物有機化学的に解明することを目的とした。H28年度はアブラムシがイネ根に寄生した際の、植物における植物ホルモンや代謝産物動態の分析を行うとともに、マイクロアレイによる遺伝子発現動態の網羅的な測定を行った。 イネ根における代謝産物のメタボローム解析の詳細な解析結果から、セロトニンの蓄積量が低いアブラムシの寄生後2~4日目の期間は、セロトニンの前駆体であるトリプトファンをはじめ殆どのアミノ酸が一時的に増加・蓄積していることが判明した。これらのアミノ酸の減少とともにセロトニンの蓄積が増大することから、イネの根では寄生初期にはアミノ酸類の普遍的な生合成活性化が生じた後、生合成経路の活性化がトリプトファン-セロトニン生合成に集中することが判明した。このことからイネ根の生合成活性化には量的制御と質的制御が複雑にかかわりあうことが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
イネ根約15-20 mgから破砕機(2200 rpm)とキット(RNeasy Plant Mini Kit)を用いてtotal-RNAの抽出・精製し、バイオアナラオザーを用いて純度の検討を行った。RIN値8.5以上のtotal-RNAを対象にキット(Affymetrix)を用いてcRNAを経てss-cDNAを合成し、短断片化した後にDNAマイクロアレイ(Affymetrix Rice(Jp) Gene Array 1.1 ST Strip)にハイブリダイゼーションさせ、マイクロアレイスキャナで読み取ることで遺伝子発現の網羅的な解析を達した。寄生から2週間にわたる経時的な調査が終了したことによりオミックス解析の実施が可能となった。 また、病害抵抗性に関与する植物ホルモンのうちサリチル酸(SA)、サリチル酸グルコシド(SAG)、アブシジン酸(ABA)分析の分析方法は確立していたがインドール酢酸(IAA)およびジャスモン酸(JA)、ジャスモン酸イソロイシン(JA-Ile)の分析条件は未明であったためLC-MSMS(MRM)でのこれらの分析条件の検討を行い最適化に至った。このことから今後イネ根におけるホルモン変動の経時的な解析が可能となった。 以上のことから本研究は概ね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
オカボノアカアブラムシがイネの根に寄生した際にどのようにセロトニンの蓄積を抑制させ、どのように自身の生存環境を改善しているかを解明するために、既に構築した研究協力体制により次の項目を実施し、セロトニン蓄積抑制経路の推定を目指す。 植物試料調整方法:イネ幼苗(日本晴)およびオカボノアカアブラムシを準備し、人工気象器にてアブラムシの寄生したイネ根を準備する。本年は得られた解析結果に基づき植物ホルモンや各種阻害剤で処理したイネの根を準備し各種測定の試料に供する。 マイクロアレイ解析:現在までにDNAマイクロアレイ法によるイネ根かにおける網羅的な遺伝子発現量の解析方法は確立している。本年はこのデータは専用のソフトウェアでネットワーク解析を行い、目的遺伝子の特定を行う。特にセロトニンの係る生合成経路に関わる解糖系・TCA回路の代謝酵素に関する遺伝子の発現量と、それらの発現調節因子の動態に重点をおき、詳細な解析を行う予定である。 メタボローム解析:本年度は解析結果を裏付けるために各種処理を行ったイネ根を対象に、Agilent G3250AA LC/MSD TOF systemを用いて既に最適化されたCE-TOFMS分析を引き続き行う。これによりセロトニン蓄積の抑制機構を決定する。 Real-time PCR解析:必要に応じて既に確立している方法を用い、RNAを調整したのち、逆転写酵素を用いてcDNAのライブラリーを作製し、最適化されたプライマーとPCR用マスターミックスを用いてcDNAを合成し、その増加曲線からRNAの転写量を測定する。これによりターゲット遺伝子の詳細な発現動態を分子生物学的に解析する。
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Research Products
(4 results)