2016 Fiscal Year Annual Research Report
土壌伝染性青枯病菌の植物認識機構-走化性の徹底解明
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15H04478
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
加藤 純一 広島大学, 先端物質科学研究科, 教授 (90231258)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | Ralstonia solanacearum / 走化性 / 植物-微生物相互作用 / 植物感染 |
Outline of Annual Research Achievements |
[走化性センサー機能の特性化]Ralstonia solanacearumは22種類の走化性センサーを有している。これまでアミノ酸(McpA)、L-リンゴ酸/コハク酸/フマル酸(McpM)、ホウ酸(McpB)の走化性センサーの特定に成功している。平成28年度の研究により、新たにL-酒石酸/D-リンゴ酸(McpT)の特定に成功した。さらにこの研究を通じ、R. solanacearumでは初めて負の走化性(エタノール、マレイン酸)を示すことを見出した。このうちマレイン酸は特定の走化性センサー(McpP)が関与していること、このMcpPはリン酸およびクエン酸を走化性誘引物質として認識することを明らかにした。マレイン酸の認識とは対照的に、エタノールは不特定多数の走化性センサーによって認識されていることが分かった。 [ホウ酸走化性センサーの特性化]平成27年度に世界で初めてのホウ酸走化性を発見し、そのセンサーの特定にも成功した(McpB)。平成28年度には、McpBのリガンド結合部位(LBD)を高発現・精製した。そしてCDスペクトル、等温滴定微量熱量計を用いてホウ酸がMcpBのLBDに直接結合することを示した。 [植物感染に関与する走化性センサーの特定]上記で特性化できた走化性センサーは対応する遺伝子の破壊株をトマト感染試験に供した。すでに植物感染への関与が明らかになっているMcpM以外の走化性センサーは、用いた試験系では植物感染に関与していないことが示唆された。 [走化性センサーがヘテロダイマーで機能している可能性?]22の走化性センサー遺伝子をすべて破壊した変異株を用いた相補試験から、(少なくとも)McpTとMcp05はヘテロダイマーで機能している可能性を示唆する結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成28年度開始時点での年度計画はすべて計画通りの成果を挙げている。 22もの走化性センサー遺伝子を持つR. solanacearumの走化性センサーを個別に特性化できるよう、22の走化性遺伝子をすべて破壊した多重破壊株を作成している。この変異株に個々の走化性センサー遺伝子を導入して走化性測定を行ったところ、アミノ酸およびL-リンゴ酸の走化性センサー遺伝子(mcpA、McpM)は予想通り当該リガンドへの走化性が復帰した。しかし、L-酒石酸/D-リンゴ酸の走化性センサー遺伝子(mcpT)およびクエン酸の走化性センサー遺伝子(mcp05)を導入した場合、対応する走化性は復帰しなかった。ところが、mcpTおよびmcp05の両遺伝子を同時に導入すると対応する走化性が復帰した。これまで、細菌の走化性センサーはホモダイマーを形成して機能していると考えられている。しかし、mcpTとmcp05の知見は走化性センサーが「ヘテロダイマー」を形成して機能している可能性を示唆するものである。もしそれが事実であるならば、ヘテロダイマーを形成する走化性センサーの組み合わせによって、感知できるリガンドのレパートリーも変化するかもしれない。平成28年度にはこのように、これまでの常識を覆すような知見を得ることにも成功している。このことを鑑みると、本研究は「当初の計画以上に進展している」と言えよう。
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Strategy for Future Research Activity |
[負の走化性の植物感染防除への利用]忌避応答を起こさせる化合物を土壌に添加することでR. solanacearumの植物感染を阻害できるか、検討する。 [走化性を標的にした植物感染防除策の検討]平成27-28年度の研究で様々な走化性物質を特定することに成功している。細菌の走化性は走化性リガンドの絶対濃度にしたがって生じる訳ではなく、走化性リガンドの濃度勾配を感知して初めて発揮される。そのため、走化性リガンドが濃度勾配がないように均一に存在すれば、走化性は起こらないことになる。そこで、植物感染に関与することが示された走化性リガンドを均一に土壌に添加することで植物感染を阻害できるか検討する。もし阻害効果があるようであれば、それが走化性の妨害によるものか検討する。 [走化性センサーはヘテロダイマーで機能するのか?]このトピックは平成28年度に得られた知見から出たものであり、当然ながら当初の計画にはない。しかし、R. solanacearumの土壌環境中での挙動を理解するためには、極めて重要なトピックであるので、平成29年度にはこの問に対し取り組む。
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Research Products
(7 results)