2016 Fiscal Year Annual Research Report
マツ材線虫病被害拡大の主因、線虫の二型性に遺伝学と化学で迫る
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15H04514
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
竹内 祐子 京都大学, 農学研究科, 助教 (80452283)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
菊地 泰生 宮崎大学, 医学部, 准教授 (20353659)
福田 健二 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (30208954)
神崎 菜摘 国立研究開発法人森林総合研究所, その他部局等, 主任研究員 等 (70435585)
土原 和子 東北学院大学, 教養学部, 准教授 (10300823)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | マツノザイセンチュウ / 分散型 / 増殖型 / トランスクリプトーム |
Outline of Annual Research Achievements |
マツ材線虫病は、マツノザイセンチュウ(以下、線虫)が伝播昆虫によってマツ属樹木に導入されることで起こる森林流行病であり、その被害拡大の鍵を握るのは線虫と伝播昆虫との巧妙な相利的便乗関係である。本課題では、線虫生活環における二型性に着目し、伝播昆虫への便乗に特化したステージ「分散型」への移行を司る制御因子の特定を目指す。 平成28年度は、分散型への移行プロセスを人為的に制御する系を確立した。線虫分散型3期幼虫(以下、DIII)はこれまでに環境の悪化(高温、個体群密度上昇、餌の不足)によって誘導されるといわれていたが、実験に用いるための誘導及び脱皮時期の揃った個体の確保はいまだ成功していない。このため、少数の個体に対して、餌条件を均一かつ最低限度にした培養系を構築し、これに対して線虫の培養株抽出物を添加、脱皮状況の観察を行うという方法を用いた。線虫材料には、前年度までに高いDIII形成能をもつことが確認されている近交系ST2系統を用いた。この結果、大量培養後の線虫より得た粗抽出液を濃縮して添加することにより、DIII形成率が高くなることが確認されたことから、本線虫も、C. elegansにおけるフェロモンを介した耐久型誘導と類似した分散型誘導機構をもつことが示唆された。 また、RNA-seq法により線虫の全生育ステージを対象とした網羅的遺伝子発現解析を行った。その結果、DIIIに特徴的な発現挙動を示す遺伝子群は少数であることが示唆されたものの、他のステージと比較して、酸化ストレス耐性、栄養代謝能共に発現量が上昇しており、枯死樹体内の不敵環境下で長期間生存するために適した遺伝子発現パターンを示した。 副次的成果として、マツノザイセンチュウ近縁種群の耐久型幼虫を多数得るために行った試料採集の過程でこれら近縁種間の分散型幼虫における形態的差異を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
線虫の分散型誘導プロセスを人為的に制御する系を確立した。また、分散型3期幼虫を含む全生育ステージの線虫を対象とした網羅的遺伝子発現解析を完了した。これらのことから、本課題は概ね計画通りに進行していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本課題は概ね順調に進展しているため、若干修正を加えながら概ね研究計画に沿って遂行する予定である。平成28年度に引き続き、分散型幼虫誘導条件の検討及び化学成分解析を行うとともに、分散型形成に際して生じる遺伝子発現挙動をRNA-seq法により網羅的に解析することで、分散型第三期誘導に関わる遺伝子群の特定を進める。
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Research Products
(11 results)