2015 Fiscal Year Annual Research Report
細菌類から木材腐朽菌へのキノン類の供給経路を標的とした次世代木材防腐剤の開発
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15H04526
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
吉田 誠 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (30447510)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
五十嵐 圭日子 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (80345181)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 木材保存剤 / 微生物間相互作用 / PQQ / 木材腐朽 |
Outline of Annual Research Achievements |
真菌類の植物細胞壁分解に基づく木材劣化を腐朽と呼ぶ。腐朽は木材に急激な強度低下を引き起こすことや初期診断が困難なことから、シロアリによる被害と同様に、木材を利用する上で細心の注意を払うべき劣化の一つである。現在、木材の劣化防止策として木材防腐剤が使用されており、木材防腐剤に求められる性能は、効能の持続性、木材への高浸透性、木材からの低溶脱性など様々であるが、環境への配慮に対する社会的な関心の高まりを受け、上記の性能を担保しつつも低毒性で環境への負荷が低い木材防腐剤の開発が求められている。 本研究課題以前の我々の研究において、真菌類が植物を分解する際に重要な役割を果たすことが予想されるピラノース脱水素酵素(PDH)が、ピロロキノリンキノン(PQQ)を補酵素とすることを見出した。PQQは限られた種の細菌類のみが合成可能な化合物であると考えられており、このことは、自然界における真菌類の植物分解過程では、細菌類から真菌類へのPQQの供給が重要であるという可能性を示唆している。そこで本課題では、この細菌類から真菌類へのPQQ供給系を遮断することで防腐性能を発揮する全く新しいコンセプトに基づく木材防腐剤の開発を目指すこととした。具体的には、PDHにおけるPQQ結合阻害剤を探索し、それをベースとした防腐性を創出することを目指す。さらに、PDHの生理的機能およびPQQ供給細菌を特定し、防腐性能発現機構の全貌を解明することが本研究課題の最終目標である。 本年度の研究目標は、これまで研究対象としてきた担子菌Coprinopsis cinerea以外の菌からもPDHを取得すること、および、SDHの立体構造について詳細を解明することである。その結果、「現在までの進捗状況」欄に示す結果を得て、その成果について公表してきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」で記述した通り、本課題の平成27年度における研究目標は、これまで研究対象としてきた担子菌Coprinopsis cinerea以外の菌からもPDHを取得すること、および、PDHの立体構造について詳細を解明することである。ここではそれぞれについて、その研究結果を記述する。 (1)各種真菌類からのPQQ依存性PDH遺伝子のクローニングと組換え酵素生産 本年度は、木材腐朽性担子菌Phanerochaete chrysosporium、Agaricus bisporus、Pleurotus ostreatusと植物病原性子のう菌Colletotrichum orbiculareを対象として、PQQ依存性PDH遺伝子のクローニングを実施した。その結果、すべての菌由来のPQQ依存性PDH様遺伝子を得ることに成功した。すでに解析を進めているC. cinerea由来のPDHと同様に、C. orbiculare由来のPDHは、ピラノース脱水素ドメインに加えてN末端側にヘム含有ドメインを保持していることが示唆された。一方、その他のPDHはヘム含有ドメインを欠損していた。これらのうち、C. orbiculareとP. chrysosporium由来PDHの酵母菌Pichia pastorisを宿主とした発現を試みたが、発現量が低かったことから、現在、大量発現系の構築を試みている。 (2)PDHの立体構造解析 C. cinerea由来PDHのヘムドメインとピラノース脱水素ドメインの三次元構造解析の結果、ヘムドメインはセロビオース脱水素酵素のものと同様の構造を呈したものの、表面電荷が大きく異なることが明らかとなった。また、ピラノース脱水素ドメインはPQQ結合に関与するアミノ酸残基が他のPQQ酵素と異なることが示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
現在のところ、C. cinerea由来のPDHを対象とした研究計画が最も順調に進んでいるため、平成28年度のできるだけ早い時期に、これまでの成果を学術論文としてまとめる予定である。また、その他の菌由来のPDHについては、大量発現系の構築がネックとなっているが、現在、C. orbiculareとP. chrysosporiumだけでなく、A. bisporusおよびP. ostreatusの発現系にも取り組んでおり、またコドンの最適化なども含めて大量発現系の構築を成功させたいと考えている。 また、平成28年度は先行しているC. cinerea由来のPDHを用いて阻害剤の探索に取り組む予定である。本酵素については、すでに大量発現系の構築に成功していることから、大量に精製酵素を得ることが可能であることから、三次元構造情報を利用して阻害剤を予測し、探索を進める予定である。 さらに本年度は、真菌類にPQQを供給する細菌類の特定についても取り組む予定である。具体的には、自然界から単離した木材腐朽菌を対象として、PCRによる細菌類群衆構造解析および蛍光in situハイブリダイゼーションを実施し、腐朽菌に共生する可能性のある細菌類を見出す。 それらに加えて、平成28年度はPDHの生理的役割を明らかにするため、PDH遺伝子を対象としたノックアウト(もしくはノックダウン)解析を実施する。対象菌としてはC. cinereaを用いて、これに対してPDH遺伝子を破壊(もしくはRNAi)を実施し、得られた変異株を種々の培地で培養することで、本遺伝子の生理的な役割についての情報を得る。
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Research Products
(4 results)