2016 Fiscal Year Annual Research Report
食中毒の原因になる不顕性感染型クドア属粘液胞子虫のリスク評価
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15H04540
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
横山 博 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (70261956)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
河合 高生 大阪府立公衆衛生研究所, 感染症部, 主任研究員 (30250319)
小林 彰子 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (90348144)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 魚病学 / 食中毒 / 寄生虫 / 公衆衛生 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、養殖ヒラメの筋肉に寄生して肉眼的症状を伴わない粘液胞子虫ナナホシクドア(Kudoa septempunctata)の摂取により、下痢や嘔吐を呈する食中毒が発生し水産的および公衆衛生上の問題になっている。その後、同様の不顕性感染型クドア(メジマグロ(クロマグロの幼魚)のムツボシクドア(K. hexapunctata)など)が次々に発見され、食中毒との関連が疑われている。本研究では、養殖メジマグロに寄生するムツボシクドアの寄生状況を調べ、乳のみマウスを用いた動物実験とヒト腸管上皮細胞(Caco-2細胞)を用いたアッセイ系により人間への毒性を定量的に明らかにするとともに、DNAマイクロアレイ法で遺伝子発現を解析し毒性のメカニズムについても解明することを目的とした。 1.メジマグロにおけるムツボシクドアの寄生調査:2016年12月~2017年2月まで、各回3~5尾ずつサンプリングして寄生率および寄生強度(胞子密度)を測定した結果、寄生率は97%、寄生強度は7.5×10の3乗~7.9×10の6乗胞子/gであった。 2.乳のみマウスを用いた毒性試験:マウス1個体あたりムツボシクドア胞子1.1×10の7乗個を経胃投与したが、0.5~4時間後における腸管内液体貯留値に対照区との間で顕著な差はなかった。 3.Caco-2細胞を用いた毒性試験:1ウェルあたり1.0×10の7~8乗個を接種した場合のみ、経上皮電気抵抗値(TER)の減少がみられ、10の6乗以下の量では変化がなかった。 4.DNAマイクロアレイによる遺伝子発現解析:ナナホシクドア接種または非接種のCaco-2単層膜からtotalRNAを抽出しDNAマイクロアレイ法によりGene Ontology解析した結果、接種群ではIL8などの炎症系サイトカインや、白血球遊走に関わるケモカインに関わる遺伝子の発現が上昇した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
メジマグロのムツボシクドアの寄生状況調査のデータ(寄生率、寄生強度、季節的変化)は情報が年々蓄積してきている。しかしながら毒性は再現性に乏しく、発症の閾値は予想以上に高いことが推測された。さらに、今までほとんど未知であったクドア食中毒の毒性メカニズムについて、遺伝子発現上の知見が得られた。以上のことから、本研究は順調に進展している。しかし、メジマグロのムツボシクドアを投与した乳のみマウスの動物試験ではヒラメのナナホシクドアと同等の結果が得られなかったことから、メカニズムはクドアの種類によって若干異なる可能性も考えられた。また、当初予定していた病理組織学的検査は、材料入手が困難だったためほとんど実施できなかった。さらに、その他の魚種(サワラ、カンパチ、アブラガレイなど)でも発見されていたクドアについては、材料費の不足のため、ほとんど網羅的な調査ができなかった。これらを総合的に判断すると、本研究課題は「おおむね順調に進展している」と評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
1.不顕性感染型クドアのリスク評価(横山、小林、河合):ヒラメのナナホシクドア、メジマグロのムツボシクドア、また他の魚種の筋肉に寄生するクドアについて、乳のみマウスとCaco-2細胞を用いたアッセイ系により食中毒の発症に要する胞子数の閾値(胞子の個数)と、実際に魚体内に寄生している寄生強度(筋肉1グラムあたりの胞子密度)から、何グラムの魚肉を摂取すれば食中毒を起こすリスクがあるかという推定値を算出する。並行して、各魚種を食材とした生食メニューから、1回の食事で1人が摂食すると見積もられる各魚種の魚肉重量(g)を推定する。食中毒を起こす魚肉重量の実験データと魚肉摂取量の推定値を比較して、実際にどの程度食中毒リスクがあるのか、クドア種や魚種、季節や産地別に、総合的に評価する。 産業的影響が大きいと思われるムツボシクドアについては、食中毒リスクがあるメジマグロの魚体サイズと時期を絞り込み、水産流通や販売の現場でも応用できるような寄生強度の簡易測定法を開発する。 さらに、病原性に関与する遺伝子やタンパク質をターゲットにした医薬品や機能性食品の開発に繋がるような研究の準備を進める。
2.不顕性感染型クドアのリスクに関する情報公開(横山、小林、河合):各種海産魚の不顕性感染型クドア種に食中毒リスクの程度を加えて、リストを完成する。生食する場合のリスクが高い魚種およびクドア種については、毒性が失われる冷凍・加熱処理条件を推奨する。また、病原性に関与するタンパク質の情報から、同時摂取が好ましい食品や避けるべき食品など食事指導のガイドラインを作成する。以上のリストは公的機関のホームページ等で公開し、正確な情報の流布に努める。
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Research Products
(5 results)