2016 Fiscal Year Annual Research Report
Investigation of disease biomarkers using metabolome analysis targeted to transporters
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15H04664
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
加藤 将夫 金沢大学, 薬学系, 教授 (30251440)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 膜輸送体 / メタボローム / バイオマーカー / 炎症性疾患 / 薬物動態 |
Outline of Annual Research Achievements |
種々の病態との関連が示唆される膜輸送体OCTN1の生体内基質を解明する目的で、OCTN1安定発現細胞株と、対照として空ベクター導入細胞に、デキストラン硫酸誘発腸炎モデルマウス小腸組織可溶化画分を添加し、一定時間incubation後に細胞株を洗い可溶化、除タンパクの後、アミノ基特異的誘導体化を行い、LC-MS/MSを用いてprecursor ion scanを行ったところ、安定発現細胞株で、空ベクター導入細胞に比べて、高いピークを検出することができた。そこで、当該ピークについてLC-TOFMSを用いて精密分子量を測定するとともに、コリジョン電圧を変化させた時のproduct ion質量の変化から、当該ピークを示す物質の構造を推定したところ、アミノ基を複数有するポリアミンであることが示唆された。さらに、購入した標品との子マスイオンの比較から、当該物質がスペルミンであることを示した。スペルミンと両細胞株とをincubationし、細胞内への取り込みを測定したところ、安定発現細胞では、空ベクター導入細胞に比べ、高い取り込みが見られた。また、octn1遺伝子欠損マウスから単離した末梢血単核球においては、野生型マウスに比べ、スペルミン濃度が低いことも示された。以上より、本研究で構築した新たなメタボローム手法によって、炎症性腸疾患モデルマウスの疾患部位に高いレベルで存在するOCTN1生体内基質を解明することができた。一方、同じくOCTN1の生体内基質であるエルゴチオネインについて、炎症時の代謝反応の変化を解明する目的で、代謝物として推定されているヘルシニンおよびS-メチルエルゴチオネインの血中濃度を測定したところ、腸炎モデルマウスでの明確な代謝反応の亢進は見られなかった。そこで、当該腸炎モデルマウス血液に含まれる、これら以外の代謝物の検出を、LC-TOFMSを用い試みている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
種々の構造特異的誘導体化反応を試みた中で、再現性や反応効率が比較的良好な反応を見出すことができたため、アミノ基特異的誘導体化が可能となった。また、炎症性腸疾患モデルマウス組織の可溶化と、可溶化液の遺伝子発現細胞とのincubationの最適化に成功し、生体内基質の濃縮が可能となった。組織を効率的に可溶化しつつ、その後の培養発現細胞とのincubationで細胞毒性等を示さない条件の最適化は多くの困難を伴ったものの、膜輸送体活性を損なわない条件下で行うことが可能となった点は、研究を遂行する上で大きな成果である。さらに、昨年度末より共同利用を開始することができたLC-TOFMSを用いた精密分子量測定の系が立ち上がり、未知化合物の構造推定に対して得られる情報量が飛躍的に増加した。これにより、本年度は、膜輸送体OCTN1の新たな生体内基質を同定することができた点で、当初目標をおおむね順調に達成できていると判断した。ただし、同定された生体内基質のバイオマーカーとしての役割や、疾患に及ぼす影響などについては、さらに多くの検討を必要としており、今後も継続的な努力が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究において確立した構造特異的誘導体化の手法と、昨年度より共同利用を開始したLC-TOFMSを駆使することにより、本年度は、膜輸送体OCTN1の新たな生体内基質を同定することができた。このことは、本研究で提唱する方法論の妥当性を示唆するとともに、同様な手法を、同じ疾患モデルの他の条件下や、他の疾患モデルにも応用することによって、それぞれの状況下での新たな生体内基質の同定が可能となることを示唆する。そこで来年度以降は、さらに本方法論を積極的に推し進め、新規基質解明を目指す目的で、他の炎症性腸疾患モデルマウス小腸組織や肝線維化モデルマウス肝臓、炎症性腸疾患患者検体への応用を進める。さらに多くの生体内基質を解明する予定である。解明された生体内基質については、各病態モデルマウスにおける生体内濃度の変動や、当該物質投与時の体内動態、病態に及ぼす影響等を検討することによって、バイオマーカーとしての有用性や、当該疾患における役割の解明を目指す。一方で、エルゴチオネインの生体内代謝については、現在までのところ明確な代謝物が検出されていない。炎症性腸疾患等の疾患モデルを作成しても、代謝物の生体内濃度に大きな変化が見られておらず、炎症時における代謝反応の変化は認められない。解析が困難である原因の一つに、体内に存在するエルゴチオネイン(食事由来)と体外から投与されたものの区別が困難である点がある。そこで来年度は、重水素標識体を入手または合成し、投与することで、その問題を克服し、炎症性疾患時に生体内で発生する代謝物の同定を試みる。昨年度からすでに、有機化学者との共同研究によっていくつかの物質の有機合成を進めており、重水素標識体の合成も可能な状況にある。
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Research Products
(19 results)