2016 Fiscal Year Annual Research Report
リーシュマニア症ワクチン開発に向けた宿主免疫記憶機構の包括的解明
Project/Area Number |
15H04724
|
Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
前川 洋一 岐阜大学, 大学院医学系研究科, 教授 (10294670)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
濱野 真二郎 長崎大学, 熱帯医学研究所, 教授 (70294915)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 寄生虫学 / 原虫感染症 / 免疫記憶 / T細胞 / イムノグロブリン |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度の研究から内臓型リーシュマニア症の病態に関与するCD8陽性T細胞内分子Xを同定した。Xは細胞内で幾つかのシグナル伝達経路に関与する分子であることがすでに明らかになっているが、CD8陽性T細胞での役割やリーシュマニア症の病態への関与については不明である。そこで、XがCD8T細胞でどのように働き、内臓型リーシュマニア症に関与しているのかを明らかにする目的で、関連するシグナル伝達経路それぞれにおける結合分子を欠損したマウスを作出し、感染実験を行った。これまでのところ、内臓型リーシュマニア症の主な感染部位である肝臓と脾臓とでCD8T細胞内でのX分子は異なったシグナル伝達経路に関与しているのではないかとの興味深い結果を得ている。平成28年度は未だ最終結論まで至ることはできなかったが、Xが関与するシグナル伝達経路を絞り込むことができていると考えている。 内臓型リーシュマニア原虫感染初期において分泌型イムノグロブリンが原虫排除を負に制御していることを明らかにしている。平成28年度は、分泌型イムノグロブリンが存在しない場合どのような機序により原虫が早期に除去されるのかについて検討した。検討の結果、補体成分であるC5の関与は否定的であった。さらに、T細胞も関与していないのではないかとの結果を得ている。細胞内寄生性原虫感染ではインターフェロンγを中心とする細胞性免疫応答が排除には重要であるため、現在インターフェロンγとの関連を検討中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
リーシュマニア症の起因病原体であるリーシュマニア原虫は細胞内に寄生する。細胞内寄生性病原体に対しては細胞性免疫応答、すなわちインターフェロンγを中心とした免疫応答が排除に極めて重要である。本研究課題における私たちの解析から、致死性である内臓型リーシュマニア症では特に感染初期の感染制御に分泌型イムノグロブリンが関与していることを見出してきた。 抗体は感染初期原虫排除に負に関連している。本年度は分泌型イムノグロブリン非存在下における初期原虫排除に機序の解明に取り組んだ。研究手法として各種遺伝子改変マウスを交配し多重遺伝子改変マウスを作出して解析する方法を用いているため、研究の進捗は早急ではないが、得られる結果は確度が高いものであると考えている。この研究手法を用いて原虫排除に幾つかのサイトカインの関連について現在結果が得られつつある状況である。 また、免疫記憶に重要な記憶細胞への分化及び、維持に関連すると考えている遺伝子群の欠損マウスについて、本年度末に作出できた。来年度以降に本マウスを用いた解析を行う研究リソースを整えることができたと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
内臓型リーシュマニア症は難治性で治療介入がない場合には致死性である。これはリーシュマニア原虫が宿主免疫応答を抑制するため、適切な原虫排除活性が発揮されないことに起因する。ワクチンで最も効果があると考えられるのは弱毒化病原体を用いた場合であり、弱毒化リーシュマニア原虫では宿主免疫応答は抑制されない。本研究課題のこれまでの研究から、分泌型イムノグロブリンが存在しない場合には感染初期から強い原虫排除活性が認められることを見出してきた。このことは、分泌型イムノグロブリンが存在しない場合には原虫による宿主免疫応答の抑制が解除されていることを示している。生体から分泌型イムノグロブリンを除去するとリーシュマニア症に対して抵抗性となる可能性はあるが、この方法を治療等に用いることは不可能である。従って、分泌型イムノグロブリン欠失と免疫応答抑制解除の関連の詳細を解明しその機序から分泌型イムノグロブリン欠失と同等の効果を発揮する経路・作用点を見出すことができれば、難治性リーシュマニア症の治療や効果的ワクチン開発に新たな洞察をもたらすことができると考える。今後は、分泌型イムノグロブリン欠失と免疫応答抑制解除の関連に焦点を当て、機序の解明に取り組む。 1)分泌型イムノグロブリン欠失マウスで認められる強力な原虫排除活性の機序を明らかにするため、感染マウス(野生型及び欠失マウス)から肝非実質細胞を分離し網羅的な遺伝子発現解析を行う。 2)網羅的遺伝子発現解析の結果抽出される遺伝子群について、特に免疫抑制解除との関連を中心に解析する。発現細胞や発現動態の検証及び試験管内での機能解析から最も重要である遺伝子を選別する。 3)選別した遺伝子の生体内での機能と免疫抑制(あるいはその解除)との関連を検証する。ゲノム編集技術を用いて短時間で多重遺伝子欠損マウスを作出し、リーシュマニア原虫感染実験による解析を行う。
|
Research Products
(10 results)