2015 Fiscal Year Annual Research Report
制御性T細胞の分化に必須な特異的エピゲノム形成機構の解明
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15H04744
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
大倉 永也 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任教授(常勤) (20300949)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 制御性T細胞 / エピゲノム |
Outline of Annual Research Achievements |
制御性T細胞(Tregと略)は抑制性免疫制御の中枢を担っていることから、Tregの量的、質的コントロールは免疫寛容誘導や抗腫瘍免疫活性増強を可能とする。そのため、Treg分化誘導の理解は、自己免疫疾患や癌等に対する治療法開発に極めて重要である。そこで、本研究では、Treg分化の要である特異的エピゲノム成立過程を、複数の角度から検討し分化誘導の分子機構を解明する。 Treg分化における積極的DNA脱メチル化機構の解析においては、DNA脱メチル化プロセスの主要な酵素であるTET family遺伝子を欠損させたTreg細胞の解析を行い、Treg特異的なDNA脱メチル化パターンの成立にTET familyが必須であることが明らかになった。Treg発生期におけるゲノム高次構造の変化については、ゲノムオーガナイザーであるSatb1をCD4細胞で欠損させたマウスの解析をおこない、Satb1がTreg特異的エピゲノムの成立に必須な因子あることが明らかになった。さらに、Satb1の欠損により胸腺におけるTreg発生が完全に阻害され、重篤な自己免疫疾患を発症した。このことはヒトにおいてもゲノム高次構造の変化に由来する自己免疫疾患発症がありうることを示す。またヒトTreg細胞を用いて全ゲノムのDNAメチル化解析を行い、ヒトにおいてもTreg特異的なDNA脱メチル化パターンが存在することが明らかとなった。このDNAメチル化情報を利用し、新たな免疫細胞解析法を確立した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
DNA脱メチル化プロセスの主要な酵素であるTET family遺伝子を欠損させたTreg細胞ではTreg細胞特異的DNA脱メチル化が抑制されていた。しかし、TET欠損マウスにおいて明確な自己免疫疾患は認められず、Treg特異的な遺伝子発現、ヒストン修飾パターンにも影響が認められなかった。今後は、Treg特異的DNA脱メチル化パターンの喪失が何をもたらすかについて解析を進める。本研究は、当初の予測よりも変化の少ない表現型であったが、DNA脱メチル化に特化した詳細な解析により、今後有用な知見が得られると考えられる。 Treg発生期におけるゲノム再構成の必要性を明らかにするため、ゲノムオーガナイザーSatb1をCD4細胞特異的に欠損させたところ、Tregの分化、発生が阻害され重篤な自己免疫疾患を発症した。さらに、Satb1欠損マウスではTreg特異的super enhancerの成立が阻害され、それに続くTreg特異的epigeneticパターンの成立、Treg特異的遺伝子発現、共に阻害されTreg分化が前駆細胞のステージで停止していた。これらの結果は、発生期におけるゲノム構造変化がTreg細胞分化に必須の役割を果たしていることを示す。本研究は、順調に進展している。 ヒトTreg細胞および通常のT細胞、活性化T細胞の全ゲノムDNAメチル化解析を行ったところ、ヒトTreg細胞においてもTreg特異的DNA脱メチル化領域が存在することが明らかになった。これらの脱メチル化パターンは、従来のタンパク質発現を指標としたTreg同定法よりも正確であり、急性の炎症反応にも影響を受けないことが解った。さらにこの特異的脱メチル化領域のメチル化情報からTreg細胞の構成、活性化率等を算出する新たな系を構築した。本研究は順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
Tet2/3 2重欠損マウスにおける遺伝子発現パターン、ヒストン修飾パターンを解析し、Tet2/3欠損によるTreg特異的epigenomeへの影響、およびTreg特異的DNA脱メチル化への影響を解析する。特にTregの安定性、維持機構における影響を解析し、Treg特異的DNA脱メチル化の喪失がもたらす影響について明らかにする。またTET喪失の効果は、脱メチル化の中間産物である5hmCの変化として現れるはずであるので、5hmCの総量を定量的に計測し、ゲノム上の分布パターン変化をChIP-seqにより解析する。 Satb1がTreg発生時の特異的epigenetics成立にどのように関わるのかを発生段階ごとにSatb1を欠損させたマウスを用いてepigenome解析、informatics解析から明らかにする。さらにSatb1結合領域がTreg発生、分化に必須の領域として働いているかを明らかにするため、結合領域を欠損させたマウスの作製を行う。さらにSatb1の欠損によるゲノム高次構造変化を立体的に評価しうる系を構築し、ゲノム構造変化とTreg細胞分化との因果関係を解明する。 Treg細胞の全ゲノムDNAメチル化パターンを詳細に解析し、Treg特異的な特徴のみならず、活性化にリンクした変化や、慢性炎症によって引き起こされる変化を同定し、臨床への応用を試みる。今後は、実際に本システムを用いて各種自己免疫疾患における免疫担当細胞の挙動を算出し、臨床知見との相関を解析する。
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Research Products
(4 results)