2015 Fiscal Year Annual Research Report
脱励起ガンマ線計測による複数プローブ同時イメージング陽電子断層撮影法の開発
Project/Area Number |
15H04770
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
福地 知則 国立研究開発法人理化学研究所, ライフサイエンス技術基盤研究センター, 研究員 (40376546)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 核医学 / イメージング / 陽電子放射断層撮影 / 放射線 / 陽電子 / 複数プローブ |
Outline of Annual Research Achievements |
陽電子放射断層撮影法(PET: Positron Emission Tomography)は、放射性同位元素を用いたプローブの生体内での分布を非侵襲的に可視化できる強力な核医学的イメージングツールであり、臨床における疾患の診断から、創薬、ライフサイエンスの基礎研究における動物実験などに広く利用されている。しかしながら、PETは陽電子と電子の対消滅の際に生じる消滅ガンマ線の計測に基本原理を置いており、この消滅ガンマ線のエネルギーが陽電子を放出した核種が異なっても陽電子と電子の静止質量である511 keVとなるため、核種を識別することができない。したがって、PETにより複数プローブを同時にイメージングすることは困難であるとされてきた。もし、PETにより複数のプローブを同時にイメージングする事が可能となれば、複数の疾患を同時に診断できるのみではなく、薬剤の相互作用や、ドラッグデリバリーシステムの検証など、様々な応用展開が考えられ、PETをより強力なツールとする事が期待できる。 そこで、本研究では、PETによる複数プローブの同時イメージングを実現するために、新原理のPETイメージングの開発を進めた。新原理のPET装置では、通常のPETイメージングで計測する陽電子の対消滅ガンマ線に加えて、陽電子の直後に放出される脱励起ガンマ線の計測も行う。脱励起ガンマ線は放射性核種に固有のエネルギーを持つため、これを計測することによりプローブの識別が可能となる。今年度、3次元イメージングが可能なリング型PET装置に、脱励起ガンマ線検出用の検出器を追加したプロトタイプ装置を構築した。この装置の基本性能を調べた後、ファントムによるテスト撮像を行い2核種の同時イメージングに成功した。 今後、小動物実験を含めた、より実用に近いイメージング実験を行い、複数プローブ同時イメージングに特化した画像再構成法の開発等を進め、実用機につなげて行く予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は、陽電子放射断層撮影法(PET: Positron Emission Tomography)による複数プローブ同時イメージングの原理を実証するために、PET装置に、脱励起ガンマ線用の検出器を追加したプロトタイプ装置を構築した。この装置は、GSOシンチレーション検出器を用いたリング型PET装置に、8台のBGOシンチレーション検出器を追加したもので、PETリングの外側の両サイドに4台ずつBGO検出器をリング状に取り付けている。通常のPETイメージングを行いながら追加検出器で陽電子の直後に放出される脱励起ガンマ線を検出することにより、プローブとなる陽電子放出核種の識別を行う。そのため、信号処理系は、通常のPETの対消滅ガンマ線の2重同時計測と、それに追加検出器による脱励起ガンマ線検出の3重同時計測を並行して行える様に改造されている。この装置の基本性能の評価として、脱励起ガンマ線の検出効率の位置依存性を調べた結果、Na-22が放出する1275 keVの脱励起ガンマ線に対して、イメージング視野の中心で約7%、検出効率の最も低いイメージング視野の端で約4%の検出効率を持つことが分かった。さらに、陽電子のみを放出する核種(F-18)と、陽電子に加えて脱励起ガンマ線を放出する核種(Na-22)の2核種を用いたロッド状ファントムのイメージング実験を行った。その結果、脱励起ガンマ線の検出を伴うイベントから再構成した画像にNa-22のみの分布が画像化され、脱励起ガンマ線の検出を伴わないイベントから再構成した画像にF-18とNa-22の両方の分布が現れていることを確認した。これらの実験により、装置が目的通りに動作しており、研究は順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度の研究で、ファントムに対するイメージング実験等により、新規に構築した複数プローブ同時イメージング用PETのプロトタイプ装置が目的通りに動作していることを確認した。今後は、より実用的な装置にするために、小動物を用いた生体での実験を行い、装置の性能を評価するとともに、改善するべき点を見つけ出して行く予定である。また、平成27年度は、Na-22を用いた複数プローブ同時イメージング実験を行ったが、他の核種についてもイメージング実験を行い適用範囲を拡大して行く予定である。さらに、複数プローブ同時イメージングに特化した画像再構成法についても開発を進める。現在は、脱励起ガンマ線検出の有無によりイベントデータを2つのグループに分け、それぞれを一般的なPETと同様の画像再構成法により画像再構成を行っている。脱励起ガンマ線検出有りの画像には、脱励起ガンマ線を放出する核種の分布が反映されるが、脱励起ガンマ線検出無しの画像には、脱励起ガンマ線放出核種と陽電子のみを放出する核種の両方の分布を反映したものとなる。これは、脱励起ガンマ線の検出効率が100%ではなにために起こる現象であり、原理的には画像の差し引きをする事により、それぞれのプローブの画像を得る事ができるはずである。しかしながら、精確な画像の差し引きを行うためには、各ボクセルにおける脱励起ガンマ線の検出効率などで補正をする必要がある。そこで、これら複数プローブ同時イメージングに特化した画像再構成法についての開発を行う。 これらの開発を進め、実用的な装置の開発を進めるとともに、複数プローブ同時イメージングPETを有効に活用できるアプリケーションの提案を行う。
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