2016 Fiscal Year Annual Research Report
粒子状物質による炎症とマイクロRNA発現のクロストークの解明とリスク評価への応用
Project/Area Number |
15H04784
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
平工 雄介 三重大学, 医学系研究科, 講師 (30324510)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 粒子状物質 / 炎症 / マイクロRNA / インジウム / カーボンブラック / ナノ素材 / 発がん / リスク評価 |
Outline of Annual Research Achievements |
粒子状物質は吸入曝露により呼吸器に蓄積し、発がんや線維化などの健康障害をもたらす。その過程の初期には炎症反応が惹起され、疾病発症に重要な役割を果たすと考えられる。マイクロRNA (miRNA)は遺伝子発現を抑制して種々の疾病に関わるが、サイトカインなどによる炎症性シグナルとクロストークして疾病発症の鍵を握る可能性が考えられる。今年度の成果は以下の通りである。1)インジウム化合物(酸化インジウムおよびインジウム・スズ酸化物)を気管内投与したラットの肺組織よりRNAを抽出してマイクロアレイ解析とリアルタイムPCRを行った。その結果、インジウム化合物により、ヒト肺癌の発症に関わるmiR-21やmiR-183の発現量が有意に増加した。データベース解析と文献検索から、miR-21は炎症や発がんに関わるプロスタグランジンE2の分解酵素Hpgd、miR-183は肺癌の進展を抑制するFstとLphn1の発現を減少させると考えられた。また、肺組織では炎症関連分子Lcn2とS100A9の発現量がそれぞれ最大で対照の約90倍および約50倍増加することが明らかになった。2)酸化インジウムナノ粒子で処理したマクロファージ由来のRAW264.7細胞および肺上皮細胞由来のA549細胞において、一酸化窒素(NO)産生を介したニトロ化DNA損傷が起こることを明らかにした。3)ナノ素材のカーボンブラックはRAW264.7細胞およびA549細胞においてニトロ化DNA損傷を起こし、その過程にはクラスリン依存性エンドサイトーシスが関与することを明らかにした。本課題で見いだしたmiRNAや炎症関連分子は、粒子状物質による疾病のリスク評価指標および予防・治療の標的として応用出来る可能性が期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、粒子状物質の曝露により誘導されるmiRNAとその標的遺伝子候補を実験動物レベルでいくつかに絞り込んでいる。インジウム化合物は肺組織でmiR-21やmiR-183の発現を増加させ、炎症および発がんシグナルとクロストークする可能性を示す興味深い知見を得ている。この知見は分子疫学研究に応用できる興味深い成果と考えられ、本課題の研究が今後進展する可能性が期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度までの成果を基盤として、今後は以下の研究を進める予定である。miRNAによる標的遺伝子候補の発現や炎症反応の制御に関しては、実験動物で得た成果に基づき、培養細胞による実験を行って確認する。分子疫学研究については、インジウム化合物の曝露を受けた労働者の血清におけるmiRNAおよび炎症関連分子を定量し、miRNAと炎症反応のクロストークをヒトレベルで実証する。これらの実験研究と分子疫学研究を通じて、粒子状物質による疾病発症の分子機構を解明し、miRNAと炎症関連分子が疾病のバイオマーカーとして応用できる可能性を明らかにする。
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