2015 Fiscal Year Annual Research Report
心臓・大血管系突然死の分子法医診断法の確立ーサイトカイン・ケモカインを指標として
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15H04798
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Research Institution | Wakayama Medical University |
Principal Investigator |
石田 裕子 和歌山県立医科大学, 医学部, 講師 (10364077)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
野坂 みずほ 和歌山県立医科大学, 医学部, 助教 (00244731)
木村 章彦 和歌山県立医科大学, 医学部, 准教授 (60136611)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 法医病理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,心筋梗塞および大動脈瘤・大動脈解離の法医診断のための新たな分子指標を見いだすことが最終目的であり,動物実験による基礎的データの収集と,剖検試料を用いた実務的検討から成る.平成27年度は平成26年度引き続き,マウスに実験的に大動脈瘤,ならびに大動脈解離を惹起して局所ならびに全身で起こる現象を分子病理学的に解析し,各疾患の発症時のサイトカイン・ケモカインの生物学的意義を検討した. 大動脈瘤モデル:8週齢オスの野生型マウス(C57BL/6)を深麻酔下にて開腹し,左腎静脈直下の高さから腸骨動脈分岐部の高さまでの大動脈を周囲組織から剥離して,0.5M塩化カルシウム溶液に浸した脱脂綿を大動脈周囲に15分間置いた後,脱脂綿を取り除いて閉腹した.6週間後に大動脈を採取してRNAを抽出し,種々のサイトカイン・ケモカイン遺伝子発現をreal time RT-PCR法にて検討したところ,CC chemokine ligand 3 (CCL3)発現がコントロールと比べて有意に亢進していた.そこで,CCL3 KOマウスを用いて同様に大動脈瘤を惹起したところ,野生型マウスと比べて大動脈瘤形成が有意に増強していた. 大動脈解離モデル:8週齢オスの野生型マウス(Balb/c)の背部皮下に深麻酔下にてミニポンプを埋め込み,angiotensin II (1.4 mg/kg/d) を持続的に投与し大動脈解離を惹起した.Angiotensin II 投与15日目に大動脈を採取してRNAを抽出し,種々のサイトカイン・ケモカイン遺伝子発現をreal time RT-PCR法にて検討したところ,IFN-gamma発現がコントロールと比べて有意に亢進していた.そこで,IFN-gamma KOマウスを用いて同様に大動脈解離を惹起したところ,野生型マウスと比べて有意に増悪しており,生存率も低下していた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,心筋梗塞および大動脈瘤・大動脈解離の法医診断のための新たな分子指標を見いだすことが最終目的であり,動物実験による基礎的データの収集と,剖検試料を用いた実務的検討から成る.具体的には,マウスに実験的に心筋梗塞または大動脈瘤,大動脈解離を惹起して局所ならびに全身で起こる現象を分子病理学的に解析し,各疾患の発症時のサイトカイン・ケモカインの生物学的意義を解明する.さらに,法医剖検例で得られた試料について種々のサイトカイン・ケモカインの発現を検討して法医実務においてこれら分子の発現動態が死因判定の有用な分子指標の一つとなり得るか否かについて検証し,新たな分子法医診断学の樹立を目指す.実験的研究と実務的研究の二つを進行させることにより,法医診断学において指標となり得る分子を効率的かつ効果的に検索することができる. 平成27年度は,主にマウスを用いた実験を行うとともに,剖検試料の収集に努めた.大動脈瘤モデルならびに大動脈解離モデルにおけるサイトカイン・ケモカインの発現動態とその生物学的意義の検討を行い,これまで順調に成果を得ている.また,死後経過時間が2日までの法医剖検事例で,心筋梗塞部,大動脈瘤,大動脈解離部および,各対照試料を収集しており,各事例の血清試料とともに-80℃で保存している.したがって,おおむね順調に進展していると考える.
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Strategy for Future Research Activity |
実験動物モデルについては,前年度に引き続き野生型マウスと各種遺伝子欠損マウスを用いて各疾患発症の分子メカニズムを解析するとともに生存率を比較検討する.さらに,動脈瘤部および動脈解離部から抽出したそれぞれのRNAについて,細胞増殖因子およびマトリックスメタロプロテアーゼの発現を検討する.採取した試料について組織学的・免疫組織化学的に検討する.また前年度の実験成績に基づいて,種々のサイトカイン・ケモカインのタンパク質発現に関して多面的な手法(免疫染色,ELISA,Flow cytometry)を用いて解析の再現性・正確性を期す.これらの実験結果を総合的に考察して大動脈瘤および大動脈解離形成の分子メカニズムを解明することにより,各疾患発生に関わるサイトカイン・ケモカインを明らかにし,法医診断のための新しい分子指標を見つけ出す. 動物実験を鋭意継続しながら,法医実務への応用研究としてそれまでに法医剖検例で収集した心筋梗塞部,大動脈瘤,大動脈解離部および,各対照試料からRNAを抽出し,指標分子の候補となったいくつかのサイトカイン・ケモカインについてreal time RT-PCR法による遺伝子発現量ならびに,ELISA法によるタンパク質発現量の定量的検討を行う.さらに免疫染色により,各分子の局在を検討する.また血清試料については,Bio-Plex Suspension Array Systemによりサイトカイン・ケモカインをタンパク質レベルで網羅的に解析する. 動物実験の結果と実務的研究の結果を総合的に考察し,急性心筋梗塞および大動脈瘤・大動脈解離の分子病態機構を解明し,各疾患においてkey playerとなるサイトカイン・ケモカインを特定する.最終的に,突然死におけるサイトカイン・ケモカインを指標とする分子法医診断基準の確立を目指す.
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