2015 Fiscal Year Annual Research Report
加齢とメタボリックシンドロームに伴う心血管障害に共通の分子基盤の解明
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15H04825
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
佐野 元昭 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 准教授 (30265798)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 免疫老化 / メタボリックシンドローム / 糖尿病 |
Outline of Annual Research Achievements |
おなかぽっこり体型の代名詞になった「メタボ」、すなわちメタボリック症候群は、見た目のかっこ悪さを警告しているのではない。おなかについた「内臓脂肪」がさまざまな生活習慣病の引き金となり、死を早めてしまうことが問題となっている。それだけではなく、メタボは感染に対する抵抗力が低下する、癌や自己免疫疾患、認知症の発症リスクが高まるなど様々な異常をきたす。メタボに起因するこれらの体調の変化は、高齢者の特徴でもある。したがって、メタボが老化の徴候を加速させている可能性が指摘されてきた。私たちの体を外敵から守る免疫システムの老化現象に着目した。メタボが老化の徴候を加速させている仕組みを解明し、健康長寿の実現に貢献できる治療法の開発につなげることをめざしている。肥満マウスの内臓脂肪組織を調べると壊死した脂肪細胞を取り囲むように浸潤している免疫細胞の中に若いマウスが本来もつはずのない老化したT細胞が激増していることを発見した。加齢により出現する老化したT細胞と極めて良く似た特徴を持っていた。この老化したT細胞が内臓脂肪の免疫環境を変調させる「悪の指揮者」としての役割を果たしていた (Shirakawa K, J Clin Invest, 2016)。この発見は、同時に、内臓脂肪型肥満が引き起こす症状や病気をくいとめるための治療法開発の道が見えてきたことを意味する。その治療法では、「老化したT細胞を選択的に体内から排除すること」がポイントになる。ヒトでも同様の仕組みがあれば、メタボだけでなく高齢者の免疫異常を制御して、健康長寿の実現に貢献できるかもしれない。脳卒中や心不全、血管病に加え、がん、COPD、CKD、サルコペニア、認知機能低下に対しても予防効果を発揮する可能性が期待できる。また、メタボや高齢者の感染に対する抵抗力の低下や自己免疫疾患発症リスクの抑制効果も期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我々は、若いマウスを脂肪の多い餌で太らせ、内臓脂肪型肥満の状態にし、その免疫細胞の変化を特にT細胞に着目して調べた。高脂肪の餌を食べはじめて3~4カ月もすると、蓄積された内臓脂肪の炎症ばかりでなく、インスリン抵抗性も発症した。 肥満マウスの内臓脂肪組織を調べると壊死した脂肪細胞を取り囲むように様々な免疫細胞が浸潤していた。その細胞の中に若いマウスが本来持つはずのない老化したT細胞が激増しているのを発見した。驚いたことに、加齢により出現する老化したT細胞と極めて良く似た特徴を持っていた。我々は、この老化したT細胞がつくる炎症物質「オステオポンチン」に着目した。オステオポンチンは様々な免疫細胞の機能制御に関わることにより、炎症性疾患や自己免疫疾患の発症に関与していることが知られている。 オステオポンチンは、これまでマクロファージが主たる産生源と考えられてきたが、内臓脂肪の組織中で、老化したT細胞はマクロファージよりはるかに大量のオステオポンチンを分泌していることが分かった。 我々は、オステオポンチンが内臓脂肪の炎症やインスリン抵抗性を引き起こしていることをつきとめた。健康な若いマウスに老化したT細胞を移植するだけで、オステオポンチンがつくられ、内臓脂肪の慢性炎症が再現され、インスリン抵抗性を発症した。しかし、移植する老化したT細胞が遺伝的にオステオポンチンをつくれないマウス由来だった場合、 内臓脂肪の炎症やインスリン抵抗性は起きなかった。 さらに、オステオポンチンが引き起こす炎症は、ブレーキがきかないことも分かった。通常、炎症が起きると、それをストップさせるために免疫のブレーキがかかるのだが、老化したT細胞がオステオポンチンをつくる炎症反応には、このブレーキは全くかからない。老化したT細胞が、オステオポンチンの分泌を介して炎症を慢性化させる真犯人であることを裏付ける証拠と考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までの成果として、昨年12月に加齢とメタボリックシンドロームに伴う代謝・心血管障害に加齢関連T細胞が共通して関与していることを報告した (Shirakawa K, Sano M, Obesity accelerates T cell senescence in murine visceral adipose tissue. J Clin Invest. 2016 Dec 1;126(12):4626-4639)。本年度は、加齢関連T細胞の特徴、ならびに、内臓脂肪組織中で生成、蓄積される機序を検討して、T細胞の免疫老化を制御することによって加齢とメタボリックシンドロームに伴う心血管障害を制御する方法論の開発に道筋をつけることを目標とする。我々は、加齢関連T細胞の特徴であるCD153が、単なるマーカーではなく、機能的にも重要な役割を担っていることを発見した。加齢関連T細胞の中でCD153の発現量とOPNの産生量が比例していた。CD153を標的とした治療によって、加齢関連T細胞の蓄積を抑える治療法の開発をめざす。
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[Journal Article] Obesity accelerates T cell senescence in murine visceral adipose tissue.2016
Author(s)
Shirakawa K, Yan X, Shinmura K, Endo J, Kataoka M, Katsumata Y, Yamamoto T, Anzai A, Isobe S, Yoshida N, Itoh H, Manabe I, Sekai M, Hamazaki Y, Fukuda K, Minato N, Sano M.
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Journal Title
J Clin Invest.
Volume: 126(12)
Pages: 4626-4639
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Acknowledgement Compliant
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