2016 Fiscal Year Annual Research Report
日本人特異的致死性びまん性肺胞障害の原因となるMUC4遺伝子変異の研究
Project/Area Number |
15H04832
|
Research Institution | Jichi Medical University |
Principal Investigator |
萩原 弘一 自治医科大学, 医学部, 教授 (00240705)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 薬剤性肺障害 / 分子標的薬 / EGFR阻害薬 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年,日本人肺の脆弱性が指摘されている.(1)薬剤性肺障害が他国(西洋や他のアジア人)より高頻度で見られ,高率に致死的な経過をたどること,(2)肺線維症を有する患者で他国より高頻度に急性増悪が起こり,高い致死率を示すと推定されることが典型例である.とくに,gefitinibの肺障害は,疫学データがしっかりしており,民族差が明確に示されている.上記2つの病態以外にも,何らかのきっかけでびまん性肺胞障害を特徴とする肺障害が起こり,患者が重篤な状態に陥る,または死亡する病態が医療のさまざまな分野で見られるが,それらにも日本人に高率に発症していると推定される病態がある.我々は,この病態は,「びまん性肺胞障害症候群」と呼んでも良いのではないかと考えている. 薬剤性肺障害や特発性肺線維症急性増悪に関与する遺伝因子は多数あると想定されるが,その中でも特に強く関与する,すなわち,遺伝的効果の高い遺伝因子を1つ想定すると民族差を説明しやすい.この場合,遺伝因子の民族内頻度の差が,そのまま疾患頻度の民族差として現れる.「びまん性肺胞障害症候群」は民族特異的な遺伝因子により引き起こされる,というのが我々の作業仮説である. 患者データおよび患者画像を検討して診断確実と考えられた症例を98名に対して施行した.対照として,コーカシアン(53名),中国漢人(68名),日本人(70名)エクソームfastqデータを,1000人ゲノムプロジェクトより取得した.全てのデータは,CLC Genomics Workbench(CLC bio)にてヒトゲノム標準配列(hg19)にmappingした.各患者で,90%以上のexon領域が10回以上読まれていることを確認したのち, Probablistic variant detectionアルゴリズムにて,ヒト標準配列と異なる塩基配列(以下,変異と記す)を取得した.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本人(患者98名+対照70名)の1名以上で検出された変異のうち,アミノ酸変化を生じる変異(non-synonymous変異)は全ゲノムで180215カ所に見いだされた.これら全てについて,イレッサ肺障害患者+タルセバ肺障害患者合計 36名と一般日本人70名で関連解析を行った. 関連解析では,MUC4の反復配列に有意な関連が集中していた.MUC4の反復配列内に異常配列が存在するか否か検索するため,患者MUC4をクローニングし,全塩基配列を決定した.その結果,MUC4反復配列内に3塩基対の挿入配列が存在することがわかった.この挿入配列は,肺障害患者の9割に認められた. MUC4には数種類の制限酵素長多型が存在する.MUC4の機能を検討するためには,それぞれの発現ベクターを作成し,それらの機能を比較検討しなければならない.我々は,3塩基挿入が確認されている多型,さらに4種類の制限酵素多型を持つ5種類の発現ベクターを作成した.これらの発現ベクターと,その受容体として働くERBB2,ERRB3の発現ベクターをco-transfectionする準備が整った.
|
Strategy for Future Research Activity |
MUC4,ERBB2,ERBB3を培養細胞にco-transfectionさせ,生存シグナル分子(AKTなど),増殖シグナル分子(ERKなど)の変化を観察する.3塩基挿入配列のあるMUC4発現ベクター,無いMUC4発現ベクターでのシグナル伝達系変化を観察する.また,3塩基挿入配列によるシグナル異常の補完を観察できるアッセイ系としても使用する予定である.
|
Research Products
(5 results)