2015 Fiscal Year Annual Research Report
脂質シグナル経路とプロゲステロンに着目した妊娠初期子宮内微小環境制御機構の解明
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15H04979
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
藤井 知行 東京大学, 医学部附属病院, 教授 (40209010)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
廣田 泰 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (40598653)
永松 健 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (60463858)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 妊娠 / 脂質 / リゾリン脂質 / 着床 / 胎盤形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は脂質メディエータ-であるリゾファスファチジン酸(lysophosphatidic acid: LPA)の分子生物学的機構に焦点をあて、LPAシグナルの着床および子宮-胎盤系の構築への寄与について探求することで、妊娠異常に対する新たな治療ターゲットの発見につながる知見を得ることを目的としている。妊娠高血圧症候群(PIH)は着床から胎盤発育の段階における絨毛細胞の子宮壁への浸潤および胎盤床の血管形成の障害が妊娠後半での発症につながることが知られている疾患である。今年度の検討により、LPA受容体の中でも生殖臓器において比較的特異的な発現が指摘されてきたLPAR3について、PIH胎盤では正常胎盤よりもmRNAおよび蛋白レベルでその発現が顕著に上昇していることを突き止めた。これはその他のLPAR1やLPAR2にはないLPAR3に特徴的な変化であった。また、絨毛細胞では酸化ストレス刺激に反応して、PIH胎盤の所見に一致したLPAR3発現の増加が認められた。一方で低酸素刺激や炎症性サイトカインによるLPAR3発現の変化は確認されなかった。これらの結果は従来PIH発症の根底にある胎盤形成障害の根源的要因に直結した分子機構である可能性を示唆している。 今後、着床期と関連を探るべくプロゲステロンによるLPAシグナル調節機構に関してマウスモデルおよび、着床不全、不育症女性からの臨床検体を用いた検討を進める予定である。それによってLPAシグナルの妊娠過程に対する寄与の全体像を把握したいと考えている。 今年度は本研究の内容に関して日本産科婦人科学会、日本生殖免疫学会、世界周産期学会において成果の発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は臨床検体を用いて、ヒト胎盤内のLPA受容体の発現状況とその調節機構について検討した。正常胎盤と妊娠高血圧症候群(PIH)のそれぞれにおいてLPA特異的受容体であるLAPR1-6の発現局在およびは発現レベルの変化について検討を進めてきた。それによりヒトPIH胎盤においてはATX-LPA産生系とLPA受容体の発現の双方で変化が生じていることが確認できた。特に、胎盤形成障害との因果関係が深い早期発症のPIHにおいてその変化がより顕著であることを見出した。これは着床から胎盤形成の一連の妊娠初期の過程に対してLPAシグナルシステムが重要な役割を持つという本研究の仮説を支持する結果である。そこで、in-vitroでの絨毛細胞培養実験により、ATXおよびLPA受容体の発現変化を生じる分子生物学的なメカニズムに焦点を当てて検討を行った。妊娠後期胎盤から得られたcytotrophoblastを合胞体栄養膜細胞へと分化させる初代細胞の分化培養モデルと絨毛細胞株(HTR-8/SVneoおよびBeWo)とのそれぞれで研究を開始している。PIH症例で確認されたLPAR、LPA産生酵素ATXの発現変化を生じる外的要因として、炎症性サイトカインや酸化ストレス刺激をターゲットとして探索を進めている。また、妊娠中の全身的なLPAシグナル動態の把握のため正常妊娠女性の末梢血中のATX濃度について、アイソフォーム別の測定を行った。また、着床障害、不育症、PIHなどの着床、胎盤形成の異常を有する妊娠例との比較検討を進めるために血清検体の収集を開始した。また、妊娠初期の子宮内膜におけるLPAシグナル関連分子の機能、プロゲステロン作用との関連の検討を目的として検討を開始した。まず野生型マウスにおいてLPAR受容体特異的刺激物質、プロゲステロン受容体阻害剤の効果を見るマウスモデルのプロトコール確立を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
絨毛細胞培養系を用いた検討では、当初の予定よりも研究の進展がみられている。酸化ストレスがPIH妊娠におけるLPAシグナルシステム障害のトリガーであることを示唆する結果が得られている。絨毛細胞側だけでなく、子宮内膜側の細胞の反応についても研究を進めることで、子宮-胎盤系におけるLPAシグナルシステム制御機構の全体像に迫ってゆく予定である。 マウスモデルを用いた検討については研究室およびそれに付随する動物実験施設の移転と研究開始の時期が重なってしまったためやや遅れが生じている。プロゲステロンとLPAシステムの相互的関係と着床のメカニズムの解析については動物実験を中心に進める必要があると考えている。移転先の研究体制が整い次第プロゲステロン低感受性のFKBP52欠損マウスを用いた検討を開始する。また、別の研究プロジェクトにおいてプロゲステロン作用を見るためのマウスモデルとしてプロゲステロン拮抗剤投与、グルココルチコイド受容体刺激、プロゲステロン代謝酵素阻害剤投与のプロトコールを確立している。今後これらも活用して、着床期、妊娠初期のLPAシステム関連分子の発現、機能の解析を進めたいと考えている。
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Research Products
(5 results)