2015 Fiscal Year Annual Research Report
有機農業とコミュニティの深化:フィリピンとメキシコの比較
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15H05141
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中西 徹 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (30227839)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
受田 宏之 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (20466816)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 有機農業 / コミュニティ / 社会ネットワーク / 産消提携 / 参加型有機認証制度 / 農慣行 |
Outline of Annual Research Achievements |
「社会ネットワークの確定と有機農業の地域的固有性の把握のための実態調査」を実施した。すなわち,(a)動態的な社会ネットワーク分析と農家経営分析のための基礎調査と(b)「産消提携」と「参加型認証制度」(PGS)に関わる基本調査である。すなわち,主として,(1)調査地全体にかかわる政治・経済・社会・文化に関する基礎データの確認改訂作業,(2)親族・姻族関係データ,(3)農業生産に関わる基本データの収集(土地制度,農民階層,水利施設,農民組織,農慣行などの基本情報),(4)「産消提携」,有機市,一般小売販売を軸とした有機農産物の流通過程についての基礎データの収集,(5)従来の有機認証制度とPGSについての基礎的情報の確保の作業を行った。 社会ネットワークについてのデータ収集は,フィリピンにおいては,調査村が比較的に散村形態であるため,必ずしも十分な作業ができたとはいえず,一部を翌年度に残したものの,刈り取り期の調査によって,以下の重要な事実発見を得ることができた。すなわち,調査対象の村落では,20軒に満たない有機農家の影響が地域全体に及び,非制限的刈り取り慣行や落ち穂拾いが続いており,土地なし層を配慮して,コンバインの使用が禁止されている。これは,有機農業がたとえ少数の農民に普及しているに過ぎないとしても,コミュニティ全体の社会関係や農慣行に与える影響が大きいことを示唆している。それは,面接調査による限り,メキシコにおいても同様な状況である。 このような有機農業の特異な性質については,中西(2015)において考察を試みた。また, 有機認証制度については,Nakanishi(2015)において,議論を展開した。これらの議論とメキシコの比較については,メキシコ有機農業推進NGOとの共同研究を行い,Ukeda et. al. (2015)が出版された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
フィリピンにおけるデータ収集は,調査村が比較的に散村形態であるため,社会ネットワークのデータ収集については一部を翌年に残している。しかし,他はほぼ順調に進み,とりわけ,刈り取り期の調査によって,村落では,有機農家の影響が農民全体に及び,非制限的刈り取り慣行や落ち穂拾いが続いており,土地なし層を配慮して,コンバインの使用が禁止されているという興味深い事実があきらかになったことは収穫であった。このことから,有機農業がたとえ少数の農民に普及しているに過ぎないとしても,コミュニティ全体の社会関係に与える影響が大きく,それが農慣行や農業技術選択に影響をもたらしうるという作業仮説を提示し得るであろう。この点については,メキシコの調査においても,同様な感触を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
フィリピンにおいても,メキシコにおいても,聞き取り調査の限りにおいては,全国レベル同様に,対象農村地域において,有機農業の移行はスムーズに進んでいるとはいえない。しかしながら,有機農業がたとえ少数の農民に普及しているに過ぎないとしても,コミュニティ全体の社会関係に与える影響が大きく,それが農慣行や農業技術選択に影響をもたらしうるという作業仮説を提示できるように思われる。その意味でも,来年度以降は,社会ネットワークの動態的把握が重要な課題となる。よりインテンシブな調査の実施を行いたい。
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