2015 Fiscal Year Annual Research Report
南アジアの紅玉髄製工芸品の流通と価値観-「伝統」と社会システムの変容の考察
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15H05147
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Research Institution | Kobe Yamate University |
Principal Investigator |
小磯 学 神戸山手大学, 現代社会学部, 教授 (40454780)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡邊 三津子 奈良女子大学, 学内共同利用施設等, 研究員 (10423245)
村山 和之 和光大学, 公私立大学の部局等, 講師 (80453968)
遠藤 仁 総合地球環境学研究所, 大学共同利用機関等の部局等, 研究員 (80551548)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 紅玉髄製ビーズ / 民族考古学 / ナガランド / ミャンマー / アイデンティティ / 伝統 / 交易 / 地理 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度はリサーチヴィザ申請に必要な書類準備に時間がかかったこともあり、本研究の調査地であるインド最東部のナガランド州への「隊」としての訪問を断念せざるを得なかった。しかしそれに代わり、当地に隣接し2000年以上にわたり紅玉髄製ビーズを使用してきたミャンマー北部の紅玉髄産出地や遺跡の実地調査を実施した。これはミャンマー人研究者タン氏、及びミャンマーに滞在中のロンドン大学のムア氏の協力を得ることで実現できた。あくまでも予備的な調査ではあったものの、下記を把握することができた。 1.今日のナガランド地方では紅玉髄製ビーズが儀礼用・正装用の首飾りの中心的な装飾品として非常に好まれているが、19世紀以前に遡る情報が極めて限られている。これに対しミャンマーでは紅玉髄製ビーズは古代遺跡から多数出土しているものの、今日では紅玉髄などメノウ系の準貴石は顧みられることが少なく、ヒスイやルビーなどの宝石が好まれている。 2.ただしミャンマーの古代の出土品は正確な年代や出土状況が不明なものが多く、比較資料として扱う場合に難しさが伴うことが課題となる。 紅玉髄製ビーズはミャンマーのみならずタイやマレーシアなど東南アジア全域から出土しており、古代にインドから完成品が大量に輸入されたほか、現地の産出地で採掘した原石からビーズを製作していたことを示す情報が最近新たに蓄積されつつある。ナガランド地方の紅玉髄製ビーズの理解を深化させるには、広く東南アジアや雲南地方などとの比較検討が必要である。 イスラーム教と紅玉髄製ビーズとの関係については、研究分担者の村山がパキスタンを単独で訪れ情報収集をおこなった。また2015年7月に開催された「東南アジア考古学者ヨーロッパ協会第15回国際会議」(フランス、パリ)と8月に開催された「石製ビーズの歴史、科学、技術に関するワークショップ」(インド、アーメダバード)で発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していたインド最東部のナガランド州の調査は、リサーチヴィザが間に合わず初年度には実施できなかった。しかしながらこれに代わり、紅玉髄製ビーズが(ナガランド州以上に)大量に報告されている隣接するミャンマーをインド側の研究協力者とともに訪れ、現地の研究者に採掘地・遺跡・博物館の案内をして頂きながら情報交換を行い、新たな土地の知見を得ることができたことは大きな収穫であった。 インドとミャンマーは国境を接しているとはいえ、今日では政治的に各々南アジアと東南アジアと別れていることもあり、両地を連続したフィールドとして把握し研究を進める姿勢・把握がかならずしも明確ではなかったといわざるを得ない(これは本研究にとどまらずあらゆる分野に関わる国際的な傾向といえる)。あくまでも予備調査の域を出る物ではなかったものの、本来の調査地であるナガランド州とその紅玉髄製工芸品の流通と価値観について、南アジアと東南アジアとの歴史的・文化的接点である調査地をより広い視野で改めて捉えなおし理解を深める必要がある。 また2016年8月28-9月3日に京都で開催される世界考古学会議にはインド側研究協力者とミャンマー側研究者と改めて終結し、初年度及びミャンマー調査で得た知見を踏まえて発表し改めて情報交換を行う。これもまた当初の予定にはなかったとはいえ、研究を進展させる大きな効果を生むものとして位置づけ、期待している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度の研究の推進方策は、以下の通りである(平成29年度については基本的に下記2、3、4を継続することを目標とし、さらに全体の調査報告書の作成を行う)。 1.2016年8月28日-9月3日に京都で開催される世界考古学会議に参加し(研究代表者:小磯、研究分担者:遠藤、研究協力者:小茄子川)、研究協力者であるザミール、ヴァサ両氏(インド、ナガランド大学)も招聘して初年度の調査結果及びナガランド州の紅玉髄製ビーズの考古学的データの総括的な報告を行う。初年度のミャンマー調査の際に案内役をお願いしたタン氏も参加予定であり、他のとくにアジア諸国のビーズ研究者とともに最新のデータに基づく情報交換を行う。 2.2017年2月に10日から2週間程度、ナガランド州の州都コヒマとその周辺の村落調査を実施する(研究代表者:小磯、研究分担者:小磯千尋、遠藤、渡邊、研究協力者:ザミール、ヴァサ、小茄子川)。サクレニ祭りを中心に聞き取り調査を行い、その際に身につける装身具の意味、また人々の多くがキリスト教徒に改宗しているなかで、古来の精霊崇拝に基づく祭りを行う意味やアイデンティティについて明らかにする。 3.2016年12-1月に10日から2週間程度、ナガランド州に輸出される良質の紅玉髄の採掘地と工芸品製作の拠点があるインド西部のグジャラート州ラタンプル及びカンバートで民族調査の実施を行う(小磯、小磯千尋、遠藤、渡邊、小茄子川)。 4.2016年8-9月に2週間程度、パキスタンとインド両国を中心としたイスラーム教徒と紅玉髄製ビーズに関する調査を継続する(研究分担者:村山)。紅玉髄への信仰はより民間信仰的な祈りのなかで継承されており、カラチやデリーなどを中心に聞き取りを進め現状を把握し、文献調査も行う。
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Research Products
(4 results)