2016 Fiscal Year Annual Research Report
東南アジアに多い若年性心臓突然死-その実態を調査する
Project/Area Number |
15H05290
|
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
藤田 眞幸 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 教授 (00211524)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中嶋 克行 女子栄養大学, 栄養学研究所, 客員教授 (10444051)
大澤 資樹 東海大学, 医学部, 教授 (90213686)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | ポックリ病 / Lai-Tai / 突然死 / 冠動脈攣縮 / 東南アジア / 不整脈 / Brugada症候群 / 脂質代謝 |
Outline of Annual Research Achievements |
ポックリ病症候群(Pokkuri Death Syndrome: PDS)は、一見、健康な青年が、夜間就寝中に突然死亡する原因不明の疾患である。冠動脈疾患による突然死例(Coronary Artery Disease: CAD)にみられる動脈硬化所見はほとんどなく、心肥大や明らかな器質的疾患もみられない。PDSは東南アジア地域で多発することが知られており、タイではLai-Tai(L-T)として知られている。 L-Tの頻度を知るため、タイChulalongkorn大学の剖検記録を、Chutivongse医師と数年にわたり調べたところ、年間、L-Tは20~30例程度であることが明らかとなった。同大学の担当地域の人口が約110万人であることから、単純に見積もると、タイ国全体で、毎年1200~1800人がL-Tで死亡していると推定された。 また、本研究では、これまで日本の事例において、突然の致死性不整脈で死亡する場合のあることが知られているBrugada 症候群の原因遺伝子の一つであるSCN5A遺伝性の変異をいくつかみとめているが、タイの事例における解析を本年度さらに進めた。昨年度は、Exon12(H558R)という心房細動に関係する変異が、タイのL-T例、CAD例、コントロール(C)事例のいずれにおいても、全体的に多い傾向にあったが、本年、新たに、QT延長症候群およびBrugada症候群に関係する変異であるExon20(R1193Q)を有する例が見いだされ、CAD例、コントロール例と比較して頻度が高い傾向にあった。現在、解析途上であるが、本年度中に全例の塩基配列決定を終了の予定である。 くわえて脂質や炎症マーカー等の分析を行い、解析中であるが、現段階で日本と同様の傾向はみつかっていない。 このほか、ミャンマーを訪問し、L-Tと同様の症例がミャンマーでもみられるとの情報を得た。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
東南アジアでは、きっちりとした解剖体制をとっている地域が少なく、信頼性の高い診断を行っているタイ国チュラロンコン大学との共同研究で得られるデータ、試料の解析を中心に研究を進めてきた。タイ国の事例の塩基配列決定については、新年度に終了できる見込みであるが、現在、タイ国以外の周辺諸国の実態調査が遅れている。 詳しいデータをもっている地域を探すと交渉が進まない傾向にあるので、おおまかな傾向についての情報収集を集めることにとどめ、できるだけ多くの地域を訪問することが重要と思われる。
|
Strategy for Future Research Activity |
引き続き、タイの事例についての実態調査と試料収集を継続するとともに、SCN5A遺伝子解析をさらに進める。実態調査については、新年度中に論文として報告の予定である。 また、明らかとなった遺伝子変異については、スペインのBrugada教授と連絡をとり、その機能的意義を明らかにする。 脂質分析については、環境温度が高いことから、死後変化の影響を強く受けている可能性があり、さらに検討する予定である。また、比較的安定な物質であるCRPやアディポネクチンについても測定しているが、これらの解析をさらに進める予定である。現時点での実態調査や脂質分析の結果からは、日本におけるポックリ病とは異なる病態のものが含まれている可能性が示唆される。たとえば、高体温や脱水、あるいは劣悪な食生活の影響を受けているものが含まれている可能性があると考えられるため、今後、血清イオン分析を行う予定である。また、先方の許諾が得られれば、典型的なLai-Tai例につき、パイロットスタディーとしてゲノム解析を行う予定である。 また、L-Tの発症状況につき、これまでの概略的な実態調査から、発症場所の実地踏査を行うなど、背景につき、より踏み込んだ調査を行う予定である。 ミャンマーとの共同研究については、体制の構築が整ってきたので、ミャンマーにおける同様の症例につき、より詳しい実態調査を行う。また、東南アジアの法医学関係者を通じて、他の周辺諸国を訪問し、新たな共同研究体制の開拓を行う予定である。
|