2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15H05347
|
Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
片平 建史 関西学院大学, 理工学部, 講師 (40642129)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | フロー / 内発的動機づけ / 学習支援 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度の研究としては、フロー状態の生理的計測手法の確立に向けた取り組みとして、脳波を用いた検討を実施した。
実験参加者は14名の大学生であり、暗算課題を遂行する間の脳波を計測した。暗算課題はスクリーン上に表示した足し算問題に対してトラックボールを操作して回答するもので、次の3つの条件が設定された。すなわち、常に容易な計算が求められ負荷の低い退屈条件、あらかじめ個人ごとに測定された最適な難易度から開始され、正解の履歴から常に難易度が調整されるフロー条件、常に最適レベルよりも難易度の高い問題を提示する過負荷条件である。実験参加者は8試行からなる各条件を交互に実施し、条件が終わるたびにフロー状態を問う質問項目に回答を行った。
暗算課題の正答率は退屈、フロー、過負荷条件でそれぞれ99.7%、54.4%、15.2%であり、条件間の難易度の操作が適切に機能していた。また、フロー状態の質問項目のうち先行研究(Ulrich et al., 2014)でフローとの対応が指摘された質問項目に注目したところ、これらの合計得点に条件の主効果が確認され、フロー条件では他の2つの条件よりも主観的に高いフロー状態が経験されたことが確認された。これらを踏まえ、脳波の解析では個人ごとに各条件の全試行に対して時間周波数解析を行い、条件ごとの加算平均結果を比較することでフロー条件に特有の脳波成分の特定を試みた。分析の結果、フロー条件、過負荷条件では退屈条件と比べて暗算課題遂行中の前頭(F3,F1,AF4,AFz,Fz,F2)におけるθ波の振幅が有意に荷大きく、さらに過負荷条件は退屈、フローの2条件と比べて右頭頂(C4,C6,CP4,CP2)におけるα波の振幅が有意に大きかった。これらの結果から、課題遂行中のリアルタイムなフロー状態が、異なる脳波成分の組み合わせによって客観的に測定できる可能性が示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は生理指標のうち、所属機関にて計測体制の整っていた脳波に注目して検討を行った。学習課題(暗算課題)遂行中の頭皮上脳波を計測し、フロー条件において他の条件(退屈条件、過負荷条件)との間に有意な差を示す脳波成分の抽出に成功した。具体的な脳波成分としては前頭θ波、右中心部α波が挙げられ、このうち前頭θ波は質問項目によって測定されたフローの主観評価とも相関していた。 従来、フロー状態下での神経活動はfMRIやPETを用いて検討されてきており、フロー状態と対応した脳波成分を示した点で、本研究では新規な研究結果が得られたと言える。また、前頭θ波、右中心部α波が関連する脳内処理はフロー理論とそれぞれ部分的に一致しており、フロー状態をこれらの異なる神経学的機能の組み合わせとして解釈し、計測する可能性が示唆された。 以上のように、生理指標を用いたフロー状態の定量化に向けた成果が得られており、おおむね順調に進展していると言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果として、学習課題(暗算課題)遂行中の神経活動を計測し、フロー条件において、他の条件(退屈条件、過負荷条件)との間に有意な差を示す脳波成分の抽出に成功した。今後の研究では、学習課題以外の実験課題を用いることで、異なる課題においても同様の脳波成分が観察されるかどうかを検証するとともに、検討指標に生理学的計測も加えることで、フロー状態を推定するより精度の高いパラメータの獲得を目指す。 計画中の実験では先行研究で暗算課題とともに採用実績のあるビデオゲームを課題として用いることを準備している。前年度の暗算課題と同様に、難易度を実験的に操作することによって、「退屈」、「フロー」、「過負荷」の状態を作り出し、フロー状態と関連する生理活動を明らかにするために、脳波、筋電図(大頬骨筋・皺眉筋)、皮膚電気活動を計測する。 昨年度の研究成果から、フロー条件時に他条件との有意な差を示す脳波成分には複数が存在し、相互に異なる傾向を示していることがわかっており、フロー状態を構成する生理活動がいくつかの機能的単位の組み合わせとして存在していることが推測される。この点を微細に検討することが可能となるよう、本年度の研究ではフロー状態を測定する主観評価において「没入感」「コントロール感」などフローが生じている瞬間の主観的体験の内容面の多様性を測定できるようにする。これによって、フロー状態で体験される質的に異なる内容と相関する生理活動を特定しやすくなり、フロー状態を構成する生理学的な機能的単位の特定を実現できると考えられる。
|