2016 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15H05347
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
片平 建史 関西学院大学, 理工学部, 講師 (40642129)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | フロー / 生理計測 / 脳波 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度の研究としては、昨年度に引き続き脳波を用いたフロー状態の生理的計測を実施するとともに、フロー状態に関連する脳波以外の生理指標の検討を進めた。 フロー状態の生理的計測については、実験参加者を16名に拡大し、暗算課題を遂行する間の脳波の解析を進めた。暗算課題では常に容易な計算が求められる退屈条件、常に個人に最適な難易度に調整されるフロー条件、常に難易度の高い問題に取り組む過負荷条件が設定された。脳波の解析では時間周波数解析を用いて条件ごとの結果を比較し、フロー条件に特有の脳波活動を検討した。分析の結果、θ波についてはフロー条件、過負荷条件で退屈条件と比べて前頭中心、左前頭、右前頭における振幅が有意に大きく、高い水準の認知的制御を反映していると解釈された。α波については過負荷条件が退屈、フロー条件よりも、フロー条件が退屈条件よりも前頭中心、左前頭、右前頭で有意に大きな振幅を示し、ワーキングメモリへの負荷を反映すると考えられた。これらの結果から、異なる周波数帯の脳波活動を組み合わせて用いることで、退屈・過負荷の両条件からフロー条件を区別できる可能性が示された。 さらに、フロー状態の生理的計測を多角的に行うべく、脳波以外の生理指標の検討を進めた。生理計測機材を導入し、フロー状態の生理的計測を行った先行研究で用いられている生理指標のうち、表情筋、心拍、皮膚電気活動、呼吸の計測準備を進めた。今後はフロー状態の生理的計測実験の際に、これらの指標を使用する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当該年度は生理指標のうち、昨年度から継続して脳波に注目した検討を深めた。学習課題(暗算課題)遂行中の頭皮上脳波を計測し、フロー条件において他の条件(退屈条件、過負荷条件)との間に有意な差を示す複数の脳波活動を明らかにし、これらを組み合わせることでフロー条件を他の条件から区別できる可能性が示された。 従来の研究では、フロー状態に特定的な神経活動はfMRIやPETを用いて見いだされてきており、フロー状態を脳波計測によって特定できる可能性を示した点で、本研究で目標とするフロー状態の生理的計測手法の確立に向けて大きな進捗が得られた。 以上のように、当該年度は生理指標を用いたフロー状態の定量化に向けた検討が深められたものの、当初予定していた脳波以外の生理信号を用いた検討まで至らず、計画にやや遅れが見られた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では、立ち遅れている脳波以外の生理信号の測定を進める。また、学習課題以外の実験課題を用いることで、異なる課題においても暗算課題と同様の脳波活動(および脳波以外の生理活動)が観察されるかどうかを検証する。この際、より精度の高いデータの取得が可能となるよう、フローを体験しやすい個人を特定するための個人差の検討も実施する。 脳波と生理信号を測定する実験については、先行研究で暗算課題とともに採用実績のあるビデオゲームを課題として用いるべく、引き続き検討を進める。初年度の暗算課題と同様、「退屈」、「フロー」、「過負荷」の状態を作り出すために、難易度を継続的に操作する手続きを開発する。フロー状態と関連する生理活動については、脳波、筋電図(大頬骨筋・皺眉筋)、皮膚電気活動、心拍、呼吸を計測する。 初年度の成果より、フロー条件は複数の脳波活動によって特定可能となることが明らかとなっており、フロー状態を構成する生理活動がいくつかの機能的単位の組み合わせとして存在していることが推測される。今後の研究では,脳波や生理活動とフローの主観的状態に含まれる側面を多面的に関連づけるために,フローが生じている間の主観的体験の内容を複数の側面から測定できる尺度を導入する。これによって、フローの主観的体験の中でも、質的に異なる側面を生理活動と別個に対応付けることが可能となり、フロー状態を構成する心的活動とその生理学的基盤についての理解を深めることが期待される。
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