2016 Fiscal Year Annual Research Report
暑熱環境におけるヒト脳認知機能低下を防ぐ対処法の開発
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15H05361
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
中田 大貴 奈良女子大学, 生活環境科学系, 准教授 (40571732)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 事象関連電位 / P300 / 熱中症 / 暑熱 / 脳波 / fMRI |
Outline of Annual Research Achievements |
H28年度は当初の計画通り、3つの実験を実施した。 実験1として、暑熱環境の違いが運動時の認知機能に及ぼす影響を検討した。一定温度に設定した人工気象室内(20℃もしくは35℃)で運動負荷試験を行い、環境温度の違いが運動時の認知機能に及ぼす影響について明らかにした。被験者には2日参加してもらい(20℃条件、35℃条件)、運動負荷は自転車エルゴメーターを使用し、15分×4セットとした。認知課題として、各運動負荷直後に体性感覚刺激Go/No-go課題を行い、事象関連電位を記録した。
実験2として、脳血流量の違いが認知機能に及ぼす影響を検討した。脳血流は血中の炭酸ガス濃度に影響されることから、呼気ガスを調節することにより脳血流量を恣意的に変化させ、脳血流量と事象関連電位の電位動態との関係性を明らかにした。呼吸数および呼気ガスの組み合わせにより、①自発呼吸レベルで大気ガスを呼気するNormal条件、②頻呼吸で大気ガスを吸気するRapid条件、③自発呼吸レベルで高炭酸ガスを呼気するNormal+Gas条件、④頻呼吸で高炭酸ガスを吸気するRapid+Gas条件、の4条件を実施した。
実験3として、認知機能低下に関わる脳活動部位の同定をするために、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)の実験を行った。被験者には水循環スーツを着用してもらい、33℃のお湯を流して30分以上の安静の後、MRI室内に移動し、視覚刺激Go/No-go課題、Flanker課題をそれぞれ6分間行い、その際の脳活動を計測した。その後前室に移動し、水循環スーツに50℃のお湯を循環させ、外耳道温が安静時の+1.1℃になるまで暑熱負荷を与えた。再度MRI室内に移動し、課題をそれぞれ6分間行い、暑熱負荷中の脳活動を計測した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実験1の実験で、事象関連電位だけではなく、足首の後脛骨神経を刺激することにより、体性感覚誘発電位も記録した。体性感覚誘発電位は、体性感覚認知処理に関する脳活動動態を反映している。本実験より、20℃条件よりも35℃条件で行った方が、体性感覚誘発電位の潜時が短縮し、末梢から中枢神経系へ至る感覚神経の伝導速度が上がること、さらに一次体性感覚野へ到達した後の皮質-皮質間の反応速度も上がることが示された。この結果は以下の論文として掲載された。 Nakata H, Oshiro M, Namba M, Shibasaki M. Effects of aerobic exercise under different thermal conditions on human somatosensory processing. Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol, 2016, 311, R629-R636. 実験2と実験3については、実験は計画通りに終了したものの、まだ論文化に至っていないため、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
H29年度は、3つの実験を計画している。 実験1として、暑熱環境における認知機能低下を防ぐ対処法を検討する。H27年度の実験と同様に、水循環スーツを用いることによって、高体温環境を作り出し、体温上昇と事象関連電位の電位動態を検討するが、頭部・顔部を冷却することによって、どのような効果が見られるのかを評価する。
実験2として、高温環境下運動時の脱水が認知機能に及ぼす影響を検討する。高温度に設定した人工気象室内(35℃)で運動負荷試験を行い、脱水条件、非脱水条件で運動パフォーマンスならびに認知機能を評価する。実際の運動・スポーツ現場の状況に近い実験設定をすることにより、暑熱環境での運動における脱水の危険性を明らかにすることができる。
実験3として、暑熱環境下における認知機能低下の脳活動動態を検討する。H27年度の実験より、暑熱環境下においては事象関連電位P300成分の振幅が低下し、認知機能に関わる神経活動が低下していることが明らかになった。しかし、H28年度に行った機能的磁気共鳴画像法(fMRI)の実験より、暑熱環境下においては脳の広範囲で活動が見られた。本実験では、これらの結果の不一致を明らかにするために、fMRIで行った課題と同様のものを用いて事象関連電位を記録し、神経活動と脳血流動態の神経生理学的メカニズムの相違について、明らかにする。
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Research Products
(6 results)