2016 Fiscal Year Annual Research Report
コンテンポラリーダンスにおける「デモクラシー」の系譜学
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15H05377
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
越智 雄磨 早稲田大学, 坪内博士記念演劇博物館, 助手 (80732552)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 関係性の美学 / ジェローム・ベル / コンテンポラリー・ダンス / 舞台芸術 |
Outline of Annual Research Achievements |
ニコラ・ブリオーの『関係性の美学』および、それに関連する研究や批判を検討し、「ノン・ダンス」の「観客とのコミュニケーション」や「関係性」「関係の民主化」といった性質を考察するための理論的パースペクティヴを考え、ジェローム・ベルの作品や1990年代以降に「ノン・ダンス」と呼ばれたダンス作品の幾つかを対象として分析を行った。 ブリオーの『関係性の美学』は、1990年代以降の現代芸術の動向を捉えるための最も有効なフレームワークの一つとして評価されている一方で、批判も多く向けられている。代表的な批判として、美術批評家クレア・ビショップによる「敵対と関係性の美学」(2004)や哲学者ジャック・ランシエールによる『解放された観客』(2008)などが挙げられる。これらの批判は、ブリオーが想定している「関係性」や「民主的なるもの」に疑義を差し挟んでおり、そこから芸術における民主的な空間や関係の正当性を考える上で有効な示唆を得る事できると考えている。こうした批判を踏まえ検討する事で、観客が作者の意図に強制的に同一化されることなく、作品の内に観客はいかに主体的にかつ民主的に存在する事ができるか否かを判断するための理論的尺度をより精緻に組み立てることができた。 また振付家と観客の関係だけでなく、振付家とダンサーの関係についても「民主的な関係」が重視される傾向が、特にフランスのコンテンポラリーダンスに見られることがわかった。そのような事例として具体的にはジェローム・ベルが2004年にパリ・オペラ座で発表した『ヴェロニク・ドワノー』を分析した。「スジェ」という中程度の位階に属するダンサーが一人で登場し、パリ・オペラ座の厳格なヒエラルキーを問題化する本作品を「関係の民主化」やミシェル・フーコーが言う「生存の美学」という観点から評価する道筋を開いた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述の研究成果に関して、ニューヨーク大学で開催された国際舞踊史学会(Society of Dance History Scholors)において一部発表することができた。また、論文『ノン・ダンスにおける生存の美学―フランスのコンテンポラリーダンスにおけるパフォーマンス的転回について―』を発表することができた。・ これらの二つの研究成果発表により、90年代以降のフランスのコンテンポラリーダンスが振付家とダンサー、振付家と観客の・「関係の民主化」を進めようとしたことと、さらに演者の個人的な生を前面に打ち出すという点で、ミシェル・フーコーの「生存の美学」や「芸術作品としての生」という考え方に接近していることが明らかになった。
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Strategy for Future Research Activity |
アメリカでは、1930年代頃に「モダンダンス」が成立し、1960年代頃にそれに反旗を翻すようにして「ポスト・モダンダンス」が生まれたという歴史的経緯がある。舞踊史家のスーザン・レイ・フォスターによれば、モダンダンスは「作者としての振付家」が特定の身体原理に基づいたテクニックを「道具としてのダンサー」に教育することで成立するものであり、そこには否応なく振付家とダンサーの主従関係が生じる。こうしたモダンダンスのあり方に反発を感じた若い世代の振付家やダンサー達から「ポスト・モダンダンス」は生まれたが、それは60年代のカウンターカルチャーや公民権運動といった自由と平等を求める「民主主義的」な政治運動とも軌を一にしている。ここでは研究の第一段階として、ダンス・アーカイブも有するニューヨーク・パブリック・ライブラリー(NYPL)などの機関で当時の政治的動向や芸術の動向を調査し、「ポスト・モダンダンス」が「民主主義の身体」と呼ばれた理由を、当時の作品を参照しながら明らかにしたい。そこでは舞踊史家サリー・ベインズによる『民主主義の身体(Democracy’s body)』(1993, Duke University Press)は必読の文献となるだろう。研究の第二段階としては、フランスに眼を転じ、1980年代にフランスのダンスの公的教育機関や個々の振付家やダンサー達はアメリカの「モダンダンス」「ポスト・モダンダンス」をいかにして取り入れていったかを国立ダンスセンターなどの機関を訪問し、調査研究を行い、アメリカ、フランス両国での調査結果の接続を試みる。
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Research Products
(5 results)