2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15H05384
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐野 勝宏 東京大学, 総合研究博物館, 特任助教 (60587781)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 考古学 / 先史学 / 狩猟 / 実験考古学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、弓矢技術の存在を示唆する間接的・直接的な考古学的証拠を多角的に集成・分析し、弓矢猟の出現期と波及プロセスを解明する。そのため、弓の投射実験によって石器に生じるマクロ・ミクロ痕跡の解析をおこない、それに基づいて考古資料の分析をおこなう。これにより、弓矢猟の出現期を明らかにする。また、石鏃、矢柄研磨器、弓のデータベース構築を行うことで、弓矢猟が波及するプロセスを定量的に評価する。 平成27年度は、小型狩猟用石器レプリカの投射実験を実施した。速度を一定に保つために改良ボウガンを用いて投射し、手突き、手投げ、投槍器、弓の4段階の異なる投射速度による違いを調べた。投射実験に使用する石器レプリカは、研究協力者の大場正善氏(山形県埋蔵文化財センター)が作成した。 実験後、着柄痕跡及び衝撃痕跡の観察・記録化を行った。マクロ痕跡は、デジタルカメラによる撮影を行い、観察された痕跡のタイプ・規模に関するデータベースを作成した。ミクロ痕跡は、平成27年度に購入したデジタルマイクロスコープKeyence VHX-5000を用いておこなった。同機種の超高速画像連結機能により、実験試料のミクロ痕跡に関する分布図を作成することが出来た。投射実験の一部は、学術雑誌に投稿し、本年度出版された。 同時並行で、晩氷期の石鏃、矢柄研磨器、弓の、数・属性・年代値に関するデータを文献から収集する作業を開始し、その大部分を終了することが出来た。データベース作成は、学生補助の協力を得て進めた。 また、後期旧石器時代前葉と中葉の考古資料の分析を進め、当該期の衝撃痕跡の形成パターンと着柄痕跡に関する有意義な成果を上げることが出来た。当成果の一部は、既に報告書や論文としてまとめ、一部は本年度末に出版され、残りは平成28年度に刊行予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は、予定していた小型狩猟用石器の投射実験を行い、その観察・記録化を進めることが出来た。その成果の一部は、既に国際誌に投稿し、出版された。考古資料の分析に関しても、日本列島後期旧石器時代前葉の狩猟用石器の分析を大方終了し、現在その成果をまとめている。 後期旧石器時代中葉の資料に関しては、成果を既に報告書の形でまとめ、出版された。その中で、高倉山遺跡の分析では、衝撃剥離のパターンと膠着材の付着状態を、平成27年度に購入したKeyence VHX-5000を用いて詳細に観察し、多くの成果を上げることが出来た。更に、当初予定になかった膠着材が付着した小型狩猟用石器の分析も可能となり、衝撃剥離と膠着材の成分分析を実施した。当資料は、旧石器時代としては珍しく、膠着材の保存状態が良く、当研究プロジェクトが目的とする着柄方法の復元に大いに役立った。成果は既に投稿し、平成28年度に刊行予定である。 また、晩氷期の石鏃、矢柄研磨器、弓の、数・属性・年代値に関するデータベース作成に関しても、当初予定より前倒しで進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、平成27年度におこなった投射実験試料の解析を進め、考古資料を分析する上で有効となる指標設定を試みる。そして、この指標に基づき考古資料の分析を進める。 分析する考古資料は、ドイツ・ケルン大学に所蔵されているネアンデルタール(中期旧石器時代)とホモ・サピエンス(後期旧石器時代)の狩猟用石器を選定した。当資料の分析により、両人類の狩猟具の投射方法の違いに関して検討することができる。また、日本国内で出土した後期旧石器時代の狩猟用石器の分析も同時並行で進める。以上の実験試料の解析と考古資料の分析は、デジタルマイクロスコープKeyence VHX-5000を用いて行う。 また、平成27年度は、晩氷期の石鏃、矢柄研磨器、弓の数・属性・年代値に関するデータベース作成を大いに進めることが出来た。平成28年度以降は、集成されたデータベースの解析を進め、弓矢猟が増加していくプロセスを絶対年代値に基づいて定量的に評価するための基礎データを構築する。これらの作業は、学生補助の協力の下に進める。 更に、本プロジェクトで作成した矢柄研磨器のデータベースを基に、矢柄の径を復元する上で有効な資料を選出し、それらの三次元形態計測も進める。当三次元形態計測は、平成27年度に購入したハンディ3DスキャナArtec Spiderを用いて行う。
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Research Products
(8 results)