2015 Fiscal Year Annual Research Report
西アフリカにおける感染症対策と生権力の複数性に関する人類学的研究
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15H05387
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
浜田 明範 国立民族学博物館, 先端人類科学研究部, 機関研究員 (30707253)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 生権力 / 感染症 / グローバルヘルス / オンコセルカ / 薬剤 / 時間性 / 医療人類学 / ガーナ |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度である2015年度は、(1)アフリカの生物医療に関する国際シンポジウム” How Do Biomedicines Shape Life, Sociality and Landscape?” を主催するとともに、(2)ガーナ南部の農村地帯におけるオンコセルカ対策プログラムに関する現地調査を実施した。 国際シンポでは、オスロ大学からウェンゼル・ガイスラー教授とルース・プリンス准教授を招聘したほか、国内から10名の研究報告者の参加もあり、サハラ砂漠以南アフリカにおいて、生物医療が人々の生活、社会性、景観をどのように変容させているのかを各地からの事例に基づいて検討した。その結果、アフリカにおける生物医療について考える際に、複数の時間性や空間性について検討することの有効性が明らかになった。 現地調査とそれを通じた思索の具体的な成果としては、以下の諸点が明らかになった。(1)従来の薬剤の人類学では、薬剤の入手可能な地域の空間的な広がりに焦点が当たっていたが、とりわけ医療従事者による実践においては、むしろ薬剤摂取のタイミングを整序することに焦点が当たっている、(2)薬剤摂取のタイミングは、病気と薬剤、それに人間の身体の関係性の特性に由来しており、病気や薬剤の種類によって、摂取の間隔や許容されるタイミングのズレが大きく異なる(例えば、結核対策は一日毎に厳密に摂取することが求められるが、オンコセルカ対策では半年に一度の摂取でよく、ときに数か月のずれが許容される)、(3)オンコセルカ症対策は、半年から一年に一度の摂取が求められるという例外的に長い周期性を持っており、また、摂取のタイミングは純粋に医学的な論理だけでなく、人々の生活に関する民族誌的な知識に基づいても決定されている。 これらの成果については、2016年度に研究論文として発表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の2015年度は、年度初めに計画した通り、国際シンポを行うことで当該分野の最新動向を把握するとともに、ガーナ南部の農村地帯においてオンコセルカ対策に関する現地調査を実施することができた。特に現地調査においては、空間性を問題にしてきた従来の薬剤の人類学に対し、時間性に注目することの重要性を見出すことで、この分野に新しい知見を付け加えるための足掛かりを作ることができた。その一方で、グローバルヘルスに関する人類学的研究の世界的な広がりは当初の予測を超えるものがあり、最先端な議論を行うためにはより文献研究に力を入れる必要があることも判明した。この点については、次年度以降に計画を修正する必要があるものの、大幅な計画の変更を必要とするものではないため、おおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、今年度に判明した問題点を解決するために、グローバルヘルスに関する人類学的研究の先行研究に関する文献研究に力を入れる。また、引き続き最先端の研究動向を把握するために、国際的な研究交流を実施する。さらに、本年度にガーナ南部の農村地帯で実施した現地調査のデータを整理し、研究の論文の形でまとめ、研究雑誌に投稿する。最後に、本年度に実施したオンコセルカ対策に関する調査をさらに進めるとともに、マラリア対策についての調査を実施する。
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Research Products
(9 results)