2015 Fiscal Year Annual Research Report
取引相手を通じた輸出企業の持続的成長メカニズム:税関取引データによる分析
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15H05392
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
杉田 洋一 一橋大学, 大学院経済学研究科, 講師 (20743719)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 経済政策 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年度は、本研究で作成中の墨米貿易取引データセットのうち、整備の完了している繊維産業のデータを用いて、論文[1]を執筆し、国際学会で報告した。論文[1]は、貿易自由化時の企業の取引相手の変化を分析することで、企業の取引相手の決定メカニズムを分析している。具体的には、2005年にアメリカ繊維市場での輸入が自由化され、中国からの輸入が増大した際の、アメリカ輸入企業とメキシコ輸出企業の取引相手の変化を分析している。アメリカ企業はより規模の大きなメキシコ企業に取引相手をスイッチし、メキシコ企業はより規模の小さなアメリカ企業に取引相手をスイッチしたという新事実が提示された。そしてこの事実を説明するために、品質や生産性といった能力の補完性により、高能力企業が高能力企業同士と取引する、序列的マッチング(positive assortative matching)の理論を提示した。この理論は、輸出企業のパフォーマンスは、輸出企業の能力だけでなく、補完性により取引相手の輸入企業の能力にも依存することを示唆しており、本研究の実証分析のフレームワークとなる理論となる。 なお論文[1]は、貿易自由化の企業間取引のマッチングへの影響を実証的に分析した初めての研究であることから、国際学会で多くの関心を集めた。2016年度にも香港科技大のセミナーと上海で開催されるコンファレンスで本論文の報告を依頼されている。 論文[1] Yoichi Sugita, Kensuke Teshima, and Enrique Seira. (2015) “Assortative Matching of Exporters and Importers.”
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2015年度は、まずアメリカ企業データ(OrbisおよびCapital IQ)を購入し、本研究に必要なデータを全て入手した。そして、リサーチアシスタント(RA)とともに、入手したデータのクリーニングに着手した。 1.メキシコ税関データのクリーニング:メキシコ輸出企業の取引先となるアメリカ企業の名前、住所、租税番号をクリーニングし、情報を同じ企業について集める、いわゆる名寄せを行っている。名前、住所、租税番号のクリーニングは既に完了し、現在はRAとともに、残る二つの作業「緩めの基準で名寄せしたものから、厳密にはマッチしていないものを目で見て取り除く」、「アメリカ企業の所有関係情報(Orbis)を用いて、店舗、事業所や子会社の取引を親会社の取引にまとめる」を行っている。2015年度中にほぼ半数以上の産業に関しては作業が完了した。機械や自動車産業など少数の産業では、極めて多数の企業が参加するため、クリーニングに要する時間が予想外にかかっており、2016年度も引き続き作業する必要がある。 2.アメリカ上場企業データのクリーニング:アメリカ上場企業の主要取引先情報(Capital IQ)を用いて、先行研究に従い、アメリカ上場企業の取引ネットワークのデータの構築するため、アメリカ企業の名寄せを開始した。先行研究の用いた名寄せのアルゴリズムには、多くの改善の余地が見つかった。このため税関データで用いている名寄せアルゴリズムを応用した、新しいアルゴリズムを作成している。 以上のように、実際のクリーニングの最中に予期せぬ困難が生じたため、2016年度もクリーニングを行う必要が生じた。しかし、これらの困難への解決策は既に着手済みであり、クリーニング自体は2016年度前半に終了する予定である。このため本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
2016年度は、2015年度に引き続いてメキシコ税関データとアメリカ上場企業データのクリーニングを行う。メキシコ企業データのクリーニングも平行して行い、メキシコ税関データとアメリカ上場企業データと接続することで、2016年度中に墨米貿易取引データセットを完成させる。また2015年に執筆した論文[1]を国際学会で報告し、国際雑誌へ投稿する。 墨米貿易取引データセットの完成以後は (課題1)取引相手企業を通じた輸出企業の成長メカニズムと(課題2)取引環境の不確実性が長期的貿易取引に与える影響を分析する。その際、因果関係を識別するために、メキシコ=アメリカ貿易に生じた外生的ショックを自然実験として用いる。 具体的な研究の方針は以下のようになる。(課題1):どのようなアメリカ企業と取引することがメキシコ企業を成長させるかを分析するためには、取引相手を外生的に変えるショックが必要である。そのような外生的なショックとして、リーマン危機時の取引相手の変化を用いる。(課題2): 取引環境の不確実性を外生的に増加させたショックとして、メキシコ政府と麻薬ギャングの抗争であるメキシコ麻薬抗争を分析する。 この2つの課題の研究の成果は、積極的に国際学会で報告し、国際雑誌へ投稿する。
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Research Products
(6 results)