2015 Fiscal Year Annual Research Report
表現する組織:イノベーションの実現における芸術・人文学的知識の役割についての研究
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15H05394
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
木村 めぐみ 一橋大学, 大学院商学研究科, 特任講師 (50711579)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | イノベーション / クリエイティブ産業 / 科学技術政策 / 文化政策 / 創造性 / 二つの文化 / デザイン |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、1)イギリスのクリエイティブ産業政策の成功要因を、政府の「外」、すなわち、産業、企業、大学、地域の 4つの観点から再考した。また、2)平成28年度の課題である、この政策の基本方針を踏まえた概念的枠組みを構築するための予備調査を行った。さらに、3)この枠組みを構築するために必要となる日本企業の事例に関する共同研究を実施した。 まず、1)については、文献資料調査およおび現地調査に基づいて、イギリスのクリエイティブ産業政策にかかわる企業や大学、研究者、専門家などにインタビュー調査を行った。具体的には(1)UKTI (英国貿易産業省)が主催したINNOVATE 2015に参加し、政府と企業、産業の関係についてのインタビュー調査を実施した。また、(2)芸術人文学評議会の支援を受けて行われている、知識交流4拠点(大学)の研究者らと議論を重ねた。さらに、(3)文化・メディア・スポーツ省、Nestaにおけるクリエイティブ産業政策をめぐる統計、および実証分析の専門家と意見交換を行った。 2)については、クリエイティブ産業政策の基本方針を枠組みとする理論を構築するため、その基礎となる歴史的背景の整理を行った。具体的には、イギリスのアーツ&クラフツ運動およびドイツ表現主義のデザイン界、製造業への波及についての調査を行った。表現主義運動は、イギリスで起きたアーツ&クラフツ運動からの影響も受けているが、ドイツはイギリス以上にその影響が製造業に強く見られる点で注目に値する。 3)クリエイティブ産業政策の基本的な方針を踏まえた概念的枠組みを日本企業に示唆を与えうるものとするため、マツダの事例研究を行った。具体的には、マツダにおける魂動デザインをめぐるリーダーシップやデザイナーの思考と実践に関して、インタビュー調査を広島本社およびカリフォルニアのデザインスタジオで実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1)イギリスのクリエイティブ産業政策の成功要因を、政府の「外」、すなわち、産業、企業、大学、地域の 4つの観点から再考し、その成果の一部を、平成27年度10月に行われた研究・技術計画学会年次大会において発表した。平成28年度中には、論文として投稿する予定である。なお、この政策は、政権の変化によっていまだ変化もあるため、平成28年度以降も調査を重ねる予定である。
2)イギリスのクリエイティブ産業政策は、芸術や文化産業の振興策だと思われる事が多いが、実際には、科学、技術、経済を中心とするイノベーション論に対する、アート、文化、芸術の視点を取り入れた考え方であり、芸術人文学の視野と科学的な視点を融合した概念的枠組みが必要である。平成27年6月に行われた組織学会の研究発表大会(一橋大学)にて発表を行い、芸術人文学的な視点と科学的な視点の違いを体感することができ、重要な示唆を得ることもできた。また、イギリスで開催されたINNOVATE UKにおいて、C.P.スノーの「二つの文化」(1959)を解決することがこの政策の目的であることがはっきりと明示されたため、この概念を踏まえた上で、これまでの創造性研究・理論を踏まえた、芸術人文学的な視点に基づく概念的枠組みを構築することがふさわしいことがわかった。二つの文化とは、日本で言えば、文系、理系の違いによって生じる問題であり、最近では、日本企業の問題として指摘されることも増えてきている。
3)平成28年3月に発行された一橋ビジネスレビューのケーススタディとして「マツダデザイン“CAR as ART”」を発表することができた。本研究は、デザインに焦点を当てたため、今後の課題としては、デザインとクリエイティブ産業ならびに創造性との関係性を整理する点にあると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
1)クリエイティブ産業政策に関する調査研究は、今後も続行する。それとともにこれまでの成果がまだワーキングペーパーや口頭発表の状態にとどまっているため、イギリスのクリエイティブ産業政策に関する基礎的な研究として、平成28年度以降に論文として投稿する予定である。また、とくに英語圏とヨーロッパでクリエイティブ産業およびその政策に関する研究が増加しているため、それらの動向の把握にも務める。 2)平成27年度中にイギリスのクリエイティブ産業政策の基本的な方針を踏まえた概念的枠組みの歴史的な背景を整理することができたため、平成28年度は、早い段階でこれまでの創造性研究・理論を踏まえた、芸術人文学的な視点に基づく概念的枠組みを構築し、まずはワーキングペーパーとして発表する。また、平成28年度中に海外ジャーナルへの投稿を積極的に行う。 3)また、マツダデザインのケースを用いて、この枠組みを応用し、組織、製品の価値などに関する考察を行う。それと同時に、定量的な分析を行うための準備を行い、統計的な分析および質問票調査などを実施する。 平成27年度は、研究のインプットに重点を置いていたため、平成28年度は、アウトプットを精力的に行いたいと考えている。
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Research Products
(5 results)