2016 Fiscal Year Annual Research Report
Development of anion-doped oxide epitaxy
Project/Area Number |
15H05424
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
近松 彰 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (40528048)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 薄膜新材料 / 複合アニオン化合物薄膜 / エピタキシャル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、酸素欠損やエピタキシャル応力を制御できる薄膜作製技術と、酸化物中に水素やフッ素等のアニオンを簡便に挿入できるトポタクティック合成法を組み合わせ、「アニオンドープ酸化物エピタキシー」を確立する。平成28年度は、ペロブスカイト型のコバルト、バナジウム、ニッケル、ルテニウム、セリウム酸化物薄膜および鉄・ルテニウム酸化物ヘテロ構造に対して水素ドープ、フッ素ドープを施し、新しい複合アニオン酸化物、複合アニオン酸化物/酸化物ヘテロ構造の合成に成功した。 水素ドープに関して、コバルト酸化物SrCoO2.5薄膜に水素化カルシウムを反応させることで、コバルト―ヒドリド結合が二次元平面状に拡がったペロブスカイト構造SrCoOxHy薄膜が得られた。一方、バナジウム酸化物SrVO3薄膜に同様の手法を施すと、ヒドリドが面直方向に一次元的に整列したSrVO2Hエピタキシャル薄膜が合成された。NdNiO3薄膜と水素化カルシウムとの反応では、酸素が還元された無限層構造NdNiO2の生成だけでなく、新たに蛍石構造ヒドリド酸化物NdNiOxHyが合成されることを見出した。 コバルト、ニッケル、ルテニウム酸化物のフッ素ドープは、これらの薄膜にポリフッ化ビニリデンと反応させることで、酸化数の小さなCo2+を含むSrCoO1.9F0.5薄膜、フッ素ドープで室温の電気抵抗が100万倍も変化するNdNiO3-xFx薄膜、酸素脱離とフッ素挿入が同時に起こり超伝導体から絶縁体に変化するSr2RuO3F2薄膜という新物質が得られた。また、セリウム酸化物SrCeO3薄膜では、同様の反応で薄膜中の酸素がすべてフッ素と置換され、蛍石構造Sr0.5Ce0.5F2.5薄膜に変化することを見出した。さらに、SrFeO2.5/SrRuO3ヘテロ構造では、上部のSrFeO2.5部分のみを選択的にフッ素化し、SrFeO2F/SrRuO3ヘテロ構造の合成に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は、①新物性を見据えたアニオンドープ酸化物薄膜の合成、②新しいトポタクティック窒化・塩化手法の開発、③デバイス素子の作製の観点から研究を進めた。 まず①では、すでに確立したトポタクティック水素・フッ素ドープの手法により、コバルト、バナジウム、ニッケル、ルテニウム、セリウム酸化物薄膜の新しい複合アニオン酸化物、複合アニオン酸化物/酸化物ヘテロ構造の合成に成功した。また、作製したこれらの薄膜の電気伝導性、光学特性、磁気特性を調べ、水素・フッ素ドープにより金属絶縁体転移、バンドギャップ変調が制御可能であることを実証できた。 ②の新しいトポタクティック窒化手法の開発に関して、前駆体であるEuNbO3エピタキシャル薄膜に対し、窒素源に尿素や塩化アンモニウムとナトリウムアミドの混合体を用いて、トポタクティック窒化を試みた。しかしながら、この方法は発生するアンモニアガスの制御が難しく、試薬の混合量の調整が必要だと分かった。一方トポタクティック塩化手法の開発では、塩素源に塩化銅を用いてSrFeO2.5薄膜と反応させることにより、塩素化する兆候が見られた。今後さらなる条件最適化に取り組んでいく。 ③は、複合アニオン酸化物を電解質として用いた全固体電気化学トランジスタ創製に向けて、電解質としてフッ素イオン伝導体LaOFを選択し、デバイス素子の検討を行った。まずパルスレーザー堆積法を用いてSrTiO3基板上にLaOF薄膜を作製し、電気伝導特性を調べた。その結果、SrTiO3、LaOFはそれぞれ絶縁体であったが、界面で電気伝導性を持つことが分かった。これは、LaOF製膜時にSrTiO3から酸素が引き抜かれたことで電子が生成したことに起因すると考えられる。また、このトランジスタ素子にゲート電圧を印加すると、抵抗変化を起こすことを確認した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、研究を①新しいトポタクティック合成手法の開発、②新物性を見据えたアニオンドープ酸化物薄膜の合成、③合成した薄膜の評価とデバイス応用の提案の観点から進める。 ①は、酸窒化物・酸塩化物薄膜のトポタクティック合成手法を新たに開発する。窒素源にはアンモニアを、塩素源には塩化銅やポリ塩化ビニリデンを用いるアイディアで、酸窒化物、酸塩化物の合成手法を開発する。具体的な物質として、ペロブスカイト型金属酸化物であるSrVO3を窒素化させたSrVO3-xNx、巨大磁気抵抗を示すEuNbO2N、超伝導を示すと考えられるNa(2-x)CaxCuO2Cl2の薄膜作製に取り組む。本研究により簡単な窒素・塩素置換の手法が確立されれば、様々な酸化物系に応用できるため、酸化物のアニオンドープ研究のブレークスルーが期待できる。 ②は、すでに確立しているトポタクティック水素・フッ素ドープ手法により、新しい遷移金属酸水素化物、酸フッ化物薄膜の合成を行い、新物性を発現させる。前駆体の酸化物薄膜は、パルスレーザー堆積法により作製する。製膜では、①酸素分圧・成長温度・レーザーパワーによる結晶中の酸素欠損制御、②格子定数・配向の異なる基板を用いた格子歪み制御の合成戦略を持って、目的物質のアニオン量・配置を制御する。発現を期待する新物性には、導電性、磁性(強磁性や巨大磁気抵抗等)、スピン・軌道秩序、イオン伝導性等を狙う。これらの物性は、結晶中の3d・4d系遷移金属や基板応力を変えることによって発現させる。 ③は、特異な物性を示した薄膜の結晶性・組成・電子状態を各種測定で評価し、第一原理計算と組み合わせて、アニオン元素に由来する物性や構造を解明する。 デバイス素子応用に関しては、フッ素イオン伝導性を示す酸フッ化物を固体電解質として用いた電気化学トランジスタを創製し、電圧印加による伝導性の制御とそのメカニズム解明を行っていく。
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Research Products
(19 results)
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[Journal Article] Topotactic fluorination of perovskite strontium ruthenate thin films using polyvinylidene fluoride2017
Author(s)
K. Kawahara, A. Chikamatsu, T. Katayama, T. Onozuka, D. Ogawa, K. Morikawa, E. Ikenaga, Y. Hirose, I. Harayama, D. Sekiba, T. Fukumura, and T. Hasegawa
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Journal Title
CrystEngComm
Volume: 19
Pages: 313-317
DOI
Peer Reviewed / Acknowledgement Compliant
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