2015 Fiscal Year Annual Research Report
幾何学的フラストレーションが誘起する電荷ガラスの研究
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15H05459
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
賀川 史敬 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, ユニットリーダー (30598983)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 電荷ガラス / 急冷 / 過冷却 / 準安定 / 相変化メモリ |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでに化学圧力の異なる一連のtheta-(BEDT-TTF)2X塩の系統性を理解する上で、電荷ガラスのなりやすさの指標として“電荷ガラス形成能“という概念を提唱し、幾何学的フラストレーションが強い物質ほど、高い電荷ガラス形成能(電荷ガラスを形成するのに必要な冷却速度が低い)を示すことを明らかにした(論文出版済)。この考え方に基づき、これまで電荷ガラス化することが知られていなかった物質に関しても、超急冷を適用することにより電荷ガラス化を創出できるはずという我々の仮説を検証すべく、レーザーや電気パルスを用いて1000 K/sを超える急冷技術を開発した。このような超急冷技術を適用することで、これまで電荷ガラス化することが知られていなかったtheta-(BEDT-TTF)2TlCo(SCN)4塩においても電荷ガラス化を創出することに成功した。さらに、この物質において、急冷とアニールをレーザーパルス制御によって行うことで、電荷のガラス状態と結晶状態を可逆的かつ不揮発に制御することに成功し、電気抵抗2ケタの変化を伴う強相関電子相変化メモリの原理実証を行なった(論文出版済)。また、この原理に基づき、無機物質においても、電気パルスを用いた磁性の可逆的かつ不揮発な制御に成功しており(論文出版済)、分子性固体において確立した概念が物質系の垣根を越えて、その普遍性が実証されつつあると言える。 またごく最近では、典型的な金属絶縁体転移物質であるVO2についても、超急冷の技術を適用し、実際に長寿命の過冷却金属状態を誘起することに成功した。さらに、過冷却金属状態と絶縁体状態での反射率の差を利用することで、可視化にも成功した。この状態がガラス的性質を有するかどうかは今後の課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究計画立案時は急冷下で発現する電荷ガラスは主に有機導体theta-(BEDT-TTF)2X塩に特徴的な現象と考えていたが、研究が進むにつれ、根底にある急冷というコンセプトは非常に広範な物質に適用できることが明らかになってきた。実際、無機物質であるMnSiにおいても、磁気スキルミオン相とスピンコニカル相といった磁気状態が電気パルスを用いた急冷を適用することで、可逆的に変化できることが分かった。分子性固体の研究から創出された物理的概念が分野・物質系を超えて波及しつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は超急冷技術を基軸に、電荷ガラス状態をより多くの物質系において見出し、また、より高速・より巨大な応答の創出を目指す。電荷ガラス創出の際には、実験的に達成できる最高冷却速度をどこまで高められるかが鍵になるが、ごく最近我々はナノ秒パルスレーザーを用いることで、達成できる冷却速度を10の3乗 → 10の7乗 K/sへと4桁近く向上させることに成功した。このさらに進展した超急冷技術によって、電荷自由度が弱くフラストレートしている系においてさえ、電荷ガラスを創出できる可能性が一層高まったと言える。
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