2016 Fiscal Year Annual Research Report
鋳型複製系における配列情報の対称性の破れと遺伝情報の発現
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15H05460
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
鳥谷部 祥一 東北大学, 工学研究科, 准教授 (40453675)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 生命の起源 / DNA / パターン形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度,まず,切断とライゲーションによる可逆反応の最適条件を検討した.この実験に半年程度を費やしたが,S化により一部配列を保護したDNAを用いると,ライゲーション反応が非常に遅くなるという問題が生じた.S化の範囲を調整したり様々な反応条件を試したりしたが,最適な反応条件を見つけることはできなかった.可逆な反応系は,実現できれば多様な実験が可能となるが,本研究課題の最終的な目標には必須ではない. そこで,可逆反応系の構築を中断し,鋳型複製系の基本的な性質を調べることに注力した.鋳型複製系は比較的最近になってから注目されはじめたシステムであり,基本的な特徴づけがまだなされていない.本年度,実験と数値計算を組み合わせることで,超指数関数的な増幅条件について基本的な特徴付けができた.特に,鋳型複製の基質となるDNA濃度を振り,増幅が生じる条件の相図を作成した.さらに,詳細な数値計算を行い,この相図を定量的に確認することができた.また,この実験は,一定サイクルごとに手で溶液の希釈を行う必要があるため,労力と時間がかかっていた.新たにリアルタイムPCRサイクラーを自作することで,効率的に実験を進められるようになった. また,空間構造がある中での鋳型複製系の実現に向け,実験系の構築を進め,ほぼ終了した.これまで,熱耐性樹脂(ポリカーボネート)の切削による微小チャンバーの作成,顕微鏡下でのペルチェ素子を用いた温度サイクル,チャンバー内でのPCRおよび鋳型複製系によるDNA増幅,蛍光観察によるDNA増幅量の測定,および,シリンジポンプを用いた物質交換を実現している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度前半では,切断とライゲーションによる可逆反応の最適条件を検討した.特に,S化と呼ばれる特殊な処理をしたDNAを用い,切断したい箇所のみを切断し,その他の場所は切断できないように実験系を設計した.しかし,ライゲースによるS化DNAの結合が非常に遅く,このアプローチでは適当な実験系を構築することは難しいと判断した. そこで,プロジェクトを一部修正し,鋳型複製系の基本的な特徴を詳細に調べることに注力を注いだ.この系はまだ細かく調べられておらず,基本的な性質が分かっていない.我々は,鋳型複製によるDNA増幅の条件などを実験と数値計算を組み合わせて定量的に評価することができた.このプロジェクトは順調に進んでいる.さらに,実験を効率的に進めるため,リアルタイムPCRサイクラーを自作した.市販の装置よりも,高速で温度サイクルがおこなえ,また,溶液の希釈を正確かつ容易に行える.今後の実験が加速できると期待している.また,情報の空間構造の観察実験については,実験系の構築が終了した.顕微鏡下のチャンバー内で,DNAを増幅し,その濃度を測定し,さらに,連続的な溶液交換に成功している.モルキュラービーコンを用いた特定配列の濃度測定を今後進める予定である.概ね順調である.
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Strategy for Future Research Activity |
実験系の構築はほぼ終了している.残されているのは,異なる配列の同時定量測定である.これは,当初の計画通り,モルキュラービーコンおよび多色の蛍光観察を用いて実現する.この実験は6月程度をめどに終了し,その後,集中的にデータを集めて,論文としてまとめる予定である.特に,(i) 基質濃度と希釈率で決まる「非平衡度」が情報の選択にどのように影響するのか.(ii) 超指数関数的増幅においては,異なる情報が空間的に異なる場所で共存できるか.などを確認する.また,並行して,数値計算および理論研究により,鋳型複製系の基本的な性質を詳細に調べる.
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Research Products
(4 results)