2015 Fiscal Year Annual Research Report
水素化物エレクトロニクスの創成:エピタキシャル薄膜技術を駆使した物性開発
Project/Area Number |
15H05546
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
大口 裕之 東北大学, マイクロシステム融合研究開発センター, 准教授 (40570908)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 水素化物 / エピタキシャル薄膜 / 平坦性 / 輸送特性 / エレクトロニクス |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、水素化物エレクトロニクス開発における基礎の構築を目指して、我々独自の高品質水素化物薄膜合成技術を発展させるとともに、水素化物の輸送特性評価に必要な特殊な実験環境を整備した。以下に詳細を報告する。 ・Pulsed Laser Deposition(PLD)法を用いたLiHエピタキシャル(エピ)薄膜成長 [その1:水素化の促進] 水素化物は、大気圧付近であっても水素が脱離しやすい傾向を有している。したがって、PLD法によりエピ膜を成長するためには、水素化を促進する工夫が必要であった。そこで本研究では、水素化物粉末合成経験の豊かな我々ゆえに作製できる水素化物圧粉ペレットをターゲットとして使用した。これにより、ターゲットのレーザー照射により得られるガス中に、水素化促進が期待されるプラズマ状の活性な水素を高濃度に含有できるようになった。その結果、LiHターゲットを用いて、[100]配向したLiHエピ膜を得ることに成功した。[その2:平坦な表面] PLD法は一般に、表面平坦性制御に優れた手法である。実際に、LiHエピ薄膜の表面平坦性を、高速電子線回折法を用いてその場観察したところ、表面平坦性が高いことが示唆された。そこで、原子間力顕微鏡により平坦性を詳細に評価したこところ、平均粗さが0.4 nm程度の極めて平坦な表面が実現していることが確認された。 ・LiHエピ膜におけるLiイオン伝導測定 成膜から評価までを大気非接触で行える評価機構を用いて、インピーダンス測定によりLiHエピ膜の[100]結晶軸に沿ったLiイオン伝導率を測定したところ、その値は配向性を持たない粉末LiHのそれと同程度であった。この結果は、立方晶のLiHにおけるLiイオン伝導が等方的であることを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
27年度は、成膜技術の発展および測定環境の整備に注力した。その結果、成膜が可能な水素化物の種類が大幅に増えただけでなく、それらの基礎物性調査、さらには高度な平坦性制御に基づく界面物性設計が可能となったため、28年度以降の進捗の加速が大いに期待できる状況となっている。したがって、進捗状況は順調であると判断した。以下に進捗状況の詳細を簡潔に記す。 ・PLD法を用いた水素化物薄膜成長の条件探索 LiHエピ膜を成長する研究を通して、プラズマ状や原子状などの活性な水素を供給することが、水素化物薄膜の鍵を握る水素化の促進に対して極めて有効であることが明らかになった。これにより、活性水素供給源の使用や、成膜プロセスにプラズマを含むスパッタ法などの有効性が示唆されるなど、薄膜成長の指針が明確になった。 ・水素化物ターゲット 水素化物ターゲットの使用によってLiHエピ膜の成長に成功した事は、既に述べた活性水素の重要性に加えて、PLD一般に認められているターゲット組成の薄膜への転写が、水素化物薄膜成長においても適用できることを証明している。したがって、ターゲットの仕込み組成を調整するだけで、多様な水素化物が実現できると期待される。 ・大気非暴露測定環境の構築 輸送特性測定機構や脱着式真空搬送室を成膜装置に取り付けたことによって、大気非暴露で、輸送特性、結晶構造、平坦性などの評価が可能となった。これにより、これまで困難であった水素化物薄膜の正確な物性研究が可能となった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、27年度に開発に成功した、成膜および測定に関する技術に立脚して、エレクトロニクスへの応用が可能な物性を示す水素化物を高品質薄膜化し、これらの基礎物性を正確に把握する。また、水素化物積層構造を作製して、エレクトロニクスデバイスとしての性能を評価する。以下に詳細を述べる。 ・成膜手法の開発 活性な水素プラズマ中における成膜が可能なスパッタ法を開発する。また、通常のPLD法で問題となる、ターゲット蒸発過程における水素‐金属間結合の切断に起因する、膜中水素欠損を抑制するため、エネルギー密度の低い赤外パルス光を用いた新規PLD法を開発する。 ・様々な材料の薄膜化 ヒドリドイオン伝導が2014年に報告されたBaH2や、キャリアドープによる高温超伝導が期待されるMgH2、さらにはSrLiH3に代表される水素化物ペロブスカイトなどを、水素化物ターゲットを用いたPLDや、新規に開発するスパッタ法などを駆使して成膜する。 ・物性評価 上に述べた水素化物のバンド構造や輸送特性を、高品質薄膜を利用して正確に評価する。また、水素化物薄膜の多層構造を作製して、その界面における特殊な物性を探索する。この研究は、電池などのデバイス開発から、キャリア制御による基礎物性設計まで多岐に渡るが、例えば、電界により界面にヒドリドイオンを蓄積し、それによって静電的にホールを誘起することによる、輸送特性制御研究が挙げられる。
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Research Products
(6 results)