2016 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15H05605
|
Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
宮本 教生 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海洋生命理工学研究開発センター, 研究員 (20612237)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 深海 / 共生 / ゲノム / 代謝 / 細菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
深海は生物学において残されたフロンティアの一つであり,生命がその特殊な環境にいかに適応してきたのかを明らかとすることは,生物の進化可能性を明らかとする上で重要である.本研究は”根”という新奇形質を獲得し,さらに細菌と新たな共生関係を結ぶことで,脊椎動物の骨という他の生物が利用出来ない資源に進出したホネクイハナムシをモデルとして,動物が新たな環境へと適応することを可能にした分子基盤を解明することを目的とする.具体的には宿主であるホネクイハナムシと共生細菌のゲノムやトランスクリプトーム情報から,ホネクイハナムシ-細菌共生系における代謝経路や生理機能を明らかとするとともに,ホネクイハナムシによる脊椎動物の骨消化吸収メカニズムを解明する.本年度は,昨年度作成した遺伝子モデルをもとに情報解析を遂行した.宿主であるホネクイハナムシのゲノムと共生細菌ゲノムとの比較解析によって,アミノ酸やその他の代謝経路に関する遺伝子について,宿主と共生細菌が相補的に関係にあることが明らかとなった.昨年度までに行ったトランスクリプトーム解析によって,コラーゲンを分解する酵素であるMatrix Metalloproteinase (MMP) をコードする遺伝子がホネクイハナムシにおいて多様化していることが明らかとなった.ゲノム配列を確認した結果,複数の遺伝子が同一Scaffoldに並んで存在しており,ホネクイハナムシの系統において遺伝子重複によって数が増えたことが示唆された.また組織や発生過程特異的なトランスクリプトーム解析をまとめた論文が BMC Evolutionary Biology 誌より出版された.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H28は主に以下の2点について解析を行った.①H27年度作成した遺伝子モデルをもとに,遺伝子のアノテーションを行った.そしてその結果を用いてアミノ酸や脂質など主要な代謝経路のマッピングを行った.さらに共生細菌2種のゲノム情報を用いて同様に代謝経路マッピングを行った.その結果,必須アミノ酸などの主要な代謝経路において宿主であるホネクイハナムシと共生細菌が相補的な関係にあることが明らかとなった.組織特異的なトランスクリプトーム解析の結果,宿主においてそれらの遺伝子は共生細菌の局在する根において発現していることが明らかとなった.これらの結果は,宿主と共生細菌がアミノ酸などの栄養素において互いに依存しあっている可能性を示唆している.②トランスクリプトーム解析の結果,細胞外マトリクスを分解する機能を持つ MMP をコードする遺伝子がホネクイハナムシにおいて多様化していること,そしてその多くが根で発現していることが明らかとなった.ゲノム配列上でのMMP遺伝子の並びを確認した結果,幾つかの遺伝子が同一Scaffold上に並んで存在していることが明らかとなった.また栄養素の吸収や生体内での輸送に関与するトランスポーター遺伝子も根の表皮で発現していた.これらの結果は根の表皮が脊椎動物の骨の消化と吸収を担っていることを示唆している.またトランスポーター遺伝子は,共生細菌が局在する菌細胞においても発現しており,ホネクイハナムシと共生細菌間における代謝相互作用の存在を示唆している.以上のトランスクリプトーム解析の結果をまとめた論文が BMC Evolutionary Biology 誌より出版された.
|
Strategy for Future Research Activity |
H29年度は以下の2項目について研究を進める. 1)昨年度行った,宿主であるホネクイハナムシと共生細菌ゲノムの比較解析によって,アミノ酸やその他の代謝経路に関する遺伝子について,その存在の有無が明らかとなった.その結果,一部の栄養素に関しては両者が相補的になっていることが明らかとなった.本年度はこのゲノム情報をもちいた代謝経路マッピングをより詳細なものとするために,組織特異的なトランスクリプトーム解析の結果と統合し,実際に共生細菌が局在している根組織においてどのような代謝経路が働いているのかを明らかとする.また共生細菌の特性が,ホストであるホネクイハナムシと共生することによってどのように変化するのかを明らかとするために,培養中と共生中の共生細菌で発現している遺伝子をRNA-seqによって網羅的に解析する. 2)骨消化に関わる遺伝子の分子進化:トランスクリプトーム解析の結果,骨に含まれる細胞外マトリックスの主要成分であるコラーゲンを分解する酵素であるMMPがホネクイハナムシにおいて多数存在していることが明らかとなった.これはホネクイハナムシの系統において,MMP遺伝子の重複とその後の突然変異の蓄積によるものと考えられる.現在はMMP遺伝子の多様化によって脊椎動物の骨に含まれる様々なタイプの細胞外マトリックスを分解することが可能になったとの仮説を立て,MMP遺伝子の機能や分子進化に関する研究を進めている.H29年度は,近縁のサツマハオリムシのトランスクリプトーム解析を行う.ホネクイハナムシとサツマハオリムシ,さらにすでにゲノムが公開されている多毛類などとも比較をすることで,ホネクイハナムシの持つMMP遺伝子がどのように進化してきたのかを解析する. またH29年度は最終年度であるため,以上の研究をまとめた論文の執筆にとりかかる.
|
Research Products
(1 results)