2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15H05619
|
Research Institution | Jikei University School of Medicine |
Principal Investigator |
杉本 真也 東京慈恵会医科大学, 医学部, 講師 (60464393)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | バイオフィルム / DNA / RNA / 分子シャペロン / 黄色ブドウ球菌 / 次世代シーケンス / ゲノム / ASEM |
Outline of Annual Research Achievements |
①DnaKの変異体解析 これまでに我々は、細胞質分子シャペロンであるDnaKがバイオフィルムマトリクス中に存在し、バイオフィルム形成を促進することを見出している。本研究では、DnaKの生理活性とバイオフィルム促進効果との相関性を明らかにするため、ドメイン欠損変異体および部位特異的変異体を作製し、黄色ブドウ球菌のバイオフィルム形成に対する促進効果を調べた。その結果、N末端のヌクレオチド結合ドメイン(NBD)のみでバイオフィルム形成促進活性を示し、C末端の基質結合ドメイン(SBD)はバイオフィルム形成促進活性を示さなかった。部位特異的変異体の解析結果から、DnaKはATPase活性と基質結合活性に依存せず、黄色ブドウ球菌のバイオフィルム形成を促進した。また、NBDは黄色ブドウ球菌の菌体に比較的強く結合するが、SBDはほとんど結合しないことが分かった。次に、DnaKとポリスチレンプレートとの相互作用を調べた結果、DnaKはポリスチレンの表面にはほとんど結合しなかった。以上の結果から、DnaKは従来の分子シャペロンとしての機能とは全く異なる様式で菌体同士の接着を促していると考えられる。 ②菌体外核酸の塩基配列の決定 黄色ブドウ球菌のバイオフィルムマトリクスに低分子RNAが含まれており、バイオフィルムの構造維持に重要であることを発見した。本研究では、それら低分子RNAの塩基配列を次世代シーケンサーを用いて解析した。それと並行して、ゲノムDNAと菌体外DNAについても塩基配列を決定した。得られた菌体外DNAの配列はゲノムDNAと酷似していたことから、ゲノムDNA全長が溶菌等により菌体外へ排出され、バイオフィルムマトリクス内に取り込まれている可能性が高いと考えられる。また、バイオフィルムマトリクスに含まれるRNAを解析した結果、黄色ブドウ球菌に由来する特定のRNAがバイオフィルムマトリクスに含まれることがわかった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画していた①DnaKの変異体解析と②菌体外核酸の塩基配列の決定をおおむね完了することが出来た。①DnaKの変異体解析では、従来の分子シャペロンとしての機能とは全く異なる様式で菌体同士の接着(凝集)を促しているという新しいDnaKの機能の側面を捉えることが出来た。②菌体外核酸の塩基配列の決定については、新学術領域研究「ゲノム支援」のサポートによって、当初の予定よりも円滑かつ速やかに遂行することが出来た。バイオフィルムの形成に極めて重要な役割を果たす菌体外DNAの由来や配列はこれまで不明であったが、本研究の結果はバイオフィルム内の一部の菌が溶菌等により自身のゲノムDNAを菌体外へ排出する可能性を強く支持するものであった。今後、特定の塩基配列を持った核酸がバイオフィルム形成に重要な役割を果たしていることが明らかになれば、それらの時空間的な動態(局在変化など)の観察を可能とするオリゴヌクレオチドや、バイオフィルム形成を制御しうるアプタマーの設計にも繋がると考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
①DnaKが認識する菌体表層分子の探索 DnaKがバイオフィルムを形成した黄色ブドウ球菌の表面に結合することを見出した。今後、DnaKが何を認識して菌体表層に結合するのかを明らかにしていく。すでに菌体表層タンパク質の遺伝子欠損株(eap欠損株、atl欠損株、strA欠損株、sasG欠損株など)については作製済みである。今後はタイコ酸生合成遺伝子の欠損株の作製やペプチドグリカン層の薄い黄色ブドウ球菌(L-form)を安定して作製する技術の確立が必要であると考えられる。 ②バイオフィルム形成におけるDnaKおよび低分子RNAの局在変化の解析 これまでの結果から、DnaKが固体表面への菌の付着ではなく、菌体同士の接着(凝集)を促している可能性が高いと考えられる。今後その可能性を検証していくことが重要である。そこで次年度は、バイオフィルム内におけるDnaKの局在を共焦点レーザー顕微鏡や大気圧走査電子顕微鏡(ASEM)を用いた免疫電顕法により明らかにしていく。ASEMは水中で電顕観察が可能であるため、より自然に近い状態でDnaKの局在を高分解能で可視化できると考えられる。菌体外RNAの局在についても、これまでの研究で得られた塩基配列に基づき、蛍光標識あるいはビオチン標識したオリゴヌクレオチドを合成し、同様の観察手法を用いて解析する。 ③バイオフィルム形成株の全ゲノム配列および菌体外DNAの全塩基配列の決定 これまでの解析結果から、菌体外DNAがドラフトゲノム配列と同等であることから、バイオフィルム内の一部の菌が溶菌等により自身のゲノムDNAを菌体外へ排出することが示唆された。しかし、現時点では菌体外DNAがゲノムDNAと100%一致するとは断定できていない。今後は、ドラフトゲノムをもとに全ゲノム配列および菌体外DNAの全塩基配列を決定する必要がある。
|
Research Products
(14 results)