2016 Fiscal Year Annual Research Report
人の認知・判断の特性と限界を考慮した自動走行システムと法制度の設計
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15H05716
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
稲垣 敏之 筑波大学, システム情報系, 教授 (60134219)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊藤 誠 筑波大学, システム情報系, 教授 (00282343)
池田 良彦 東海大学, 法学部, 客員教授 (60212792)
中山 幸二 明治大学, 法務研究科, 専任教授 (50366895)
芳賀 繁 立教大学, 現代心理学部, 教授 (10281544)
小松原 明哲 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (80178368)
田中 健次 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (60197415)
高橋 宏 湘南工科大学, 工学部, 教授 (80454156)
和田 隆広 立命館大学, 情報理工学部, 教授 (30322564)
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Project Period (FY) |
2015-05-29 – 2020-03-31
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Keywords | 自動走行システム / ヒューマンファクター / 権限と責任 / 過失責任 / レジリエンス |
Outline of Annual Research Achievements |
HF研究アスペクトでは、自動運転のためのHMI設計ガイドラインを策定した。また、ED研究アスペクトと協力し、レベル2の自動運転のドライバモニタリングとして会話を用いる方式を提案し、脳波の事象関連電位を用いるドライバ状態評価法の可能性を検討した。さらに、レジリエンス行動の特性の理論的な検討を行い、人間のレジリエンス能力を高める手法のドライバ教育への適用可能性を検討した。 ED研究アスペクトでは、自動運転のレベルに応じた権限委譲機構の開発を行い、ドライバ操舵により徐々に手動運転に移行する手法と、不適切な介入を防ぐためのプロテクションを提案した。さらに、プロテクションが不完全な場合の効果評価を行った。また、システムから運転者への権限委譲の要請が行われる前にドライバが権限委譲要請を予期できるようにするHMI(シート振動、操作デバイス・車両挙動、周辺視覚や聴覚を活用)をHF研究アスペクトと協力して提案した。さらに、権限委譲の円滑化を図る権限共有方式を開発して各大学で認知工学的実験を行い、状況認識の向上と警戒心の確保の視点から機能検証を行った。 AR研究アスペクトでは、レベル3の自動運転が想定している権限委譲のリスク評価を行うことにより、レベル3の自動運転は社会実装の目標とすべきでないことを数理的に証明した。一方、それでもなおレベル3の自動運転が社会実装された場合の運転者過失の問い方・問われ方について模擬裁判やシンポジウムを開催して考察しつつ、システムの要請に基づく権限委譲を境に運転主体がシステムから運転者に替わるケースにおける運転者過失に関する新しい法理論の構築を行った。 また、海外から5名の研究協力者を招いてシンポジウムを行い、本研究課題の成果を各国で進められている自動運転関連プロジェクト(わが国なら、内閣府SIPや国交省ASV推進計画等)へ展開するための方策について討議した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」欄に示したとおり、28年度分として計画をしていた研究は、HF研究アスペクト、ED研究アスペクト、AR研究アスペクトのいずれにおいても、ほぼ予定どおり実施できている。また、研究チーム内でも定期的に情報交換や討議を行うことができており、実験方法の検討や調整も円滑に進められる状況である。 これまでの論文発表は、それ以前の研究をベースにしているところがあるため、まだ機関ごとの発表が多い状況であるが、今後は機関をまたぐ共著論文も増やしていく予定である。国際共著論文も増えつつあり、この傾向はこれから一層加速できるものと考えている。HFアスペクト及びEDアスペクトでは、現在、28年度の実験の成果をまとめて論文の執筆を進めているところである。一方、ARアスペクトは、各論を論文としてまとめるというよりは、自動走行システムを装備した車両のさまざまな形態の事故を想定した模擬裁判などを通じた事例の理解や解析の深化、さらには経験の蓄積が重要である。実際、そのための活動は予定どおりできている。 自動運転に関する官民の取組みは前年度にも増して加速の度合いを強めているが、社会へは必ずしも正しい理解が浸透しておらず、自動走行システムを搭載した車両に対するユーザーの過信に起因する事故が発生するようになっている。この背景には、社会からの関心を集めようとする官民の拙速ともいえる技術開発がある。本研究では、そのような風潮に一石を投じるべく、学術的な真理探究を軽視しない姿勢を堅持しているが、本研究の成果として明らかになりつつある技術面あるいはシステム設計面での問題点を、可能な限り迅速に内閣府SIP 「自動走行システム」や国交省第6期先進安全自動車(ASV)推進計画等にフィードバックする姿勢をより強化する必要があると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
HF研究アスペクトでは、自動運転のためのHMI設計がshared mental modelにもたらす影響を明らかにするとともに、レベル2の自動運転におけるドライバモニタリングの新手法である会話を用いる方式について詳細な機能評価を行う。さらに「想定外事象発生時のレジリエンス情勢プログラムの開発」のために、レジリエンス特性を図る心理尺度とドライバのレジリエンス能力を高める教育・訓練手法の開発に取り組む。 EDアスペクトでは、権限共有方式と権限委譲方式との比較を行うとともに、権限委譲方式が必要な場合に権限委譲要請を予期できるようにするためのHMIの高度化を行う。また自動運転と手動運転との間をつなぐshared controlモードを構築し、各大学でドライビングシミュレータを用いた認知工学的実験を行い、状況認識の向上、警戒心の確保、過信・不信の視点から機能評価を行う。 AR研究アスペクトでは、28年度の研究によって明らかになったレベル3の自動運転の不合理性が運転者過失の問い方・問われ方にどのような影響を及ぼすかについて、民事法、刑事法ならびに人間機械共生学の視点から詳細な解析を行うとともに、レベル3の自動運転の不合理性を解消するうえでレベル4の自動運転の意味を検証し、システムの要請に基づく権限委譲を境に運転主体がシステムからドライバに替わるケースにおける運転者過失に関する新しい法理論の構築に取り組む。 各機関とも、29年度交付申請書に記載した研究計画に従って着実に研究を推進するとともに、学術雑誌論文を増やしていくことによって、本研究チームのプレゼンスをさらに高めていく。そのためにより一層の機関間交流・協働並びに海外の研究協力者との共同研究を推進する。さらに、内閣府SIPや国交省ASVへ本研究の成果を積極的に提供し、自動運転システム実現に向けた問題解決への貢献を加速させたい。
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Research Products
(74 results)