2016 Fiscal Year Annual Research Report
電荷分離,プロトン移動,電子伝達,巨大電子状態揺らぎの非断熱電子化学
Project/Area Number |
15H05752
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
高塚 和夫 京都大学, 福井謙一記念研究センター, 研究員 (70154797)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高橋 聡 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (20456180)
山下 雄史 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任准教授 (50615622)
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Project Period (FY) |
2015-05-29 – 2020-03-31
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Keywords | 電子ダイナミクス / 非断熱遷移 / プロトン移動 / 電子移動 / 励起状態動力学 / 超高速化学反応 / レーザー化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題では,ボルン・オッペンハイマー(BO)近似に依拠する現在の量子化学では扱うことができない非断熱電子動力学現象を研究対象とし,理論化学の応用可能領域を一挙に拡大する.「超BO化学」を「BO近似からかけ離れているために,新しい現象や法則が出現する化学領域」とし,超BO化学を開拓・発展させている.主たる具体的課題のうち,本年度は以下の成果を挙げた,あるいは,研究を鋭意進行中である. (1)光合成の初期過程等における水の分解,電荷分離とそれに引き続く電子伝達動力学とプロトンリレーの非断熱電子動力学的機構を明らかにした. (2)超高擬縮重電子状態が原子核運動とカップルして激しく大きく揺らぐ電子状態の動力学的特徴を抽出することができた.これは,今後の新たな反応場の設計に重要な役割を果たす. (3)核と電子の動力学的カップリングを背景とする多原子分子の励起波束状態からの多光子アト秒イオン化の動力学理論を展開し,それに基づいて応用研究を始めた.世界的に類例の無い研究ができるようになった. (4)多次元系への適用可能性を数値計算によって既に確認している多体量子波動関数Action Decomposed Functionを、より柔軟かつ汎用性の高い理論の構築へと進めた. (5)タンパク質と内包されている水分子のダイナミクスを追う高精度分子動力学シミュレーションの技術を整備し,シトクロームc酸化酵素(CcO)のような膜タンパク質に対しても,精度が保てるようにモデルの検討とモデル構築のための理論の検討をおこなっている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り,「超BO化学を発展させ,新しい化学の研究領域を切り拓く」という全体像の中で,個別に,新しい学術のsub-fieldへの開拓を行うことできている.例えば,「強いレーザー場における多原子分子の励起状態や波束状態からの多光子イオン化の動力学」や,「非断熱相互作用で結合した密集した擬縮重系を通過する励起状態化学動力学」などである. 多体化学動力学理論に関しては,我々が開発したADF(Action Decomposed Function)ダイナミクスの計算において動的な基底となるガウス型関数に,物理的な要請と自然に整合するやり方で、波動関数の時間発展において必然的に生じる非対称性を組み込み,定式化した.数値的検証を現在進行中であり,この研究も独創性の高い世界最先端の研究ができている. タンパクの動力学に関しては,動力学的な研究への準備段階として,シトクロームc酸化酵素(CcO)で起こる電子移動を起こす金属錯体部位(heme aとheme a3)についての電子状態を密度汎関数(DFT)法で調査した. 全体としては,新しい理論化学の学術分野を開拓し,着々と世界に先駆けた研究を展開しているが,極端に意外性のある現象の発見は,今後を待ちたい.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題を通して,従来は理論化学では取り扱えなかった問題が,一挙に取り扱えることになったことを意味しており,分子科学の新しい理論分野を切り拓くものである.現状を維持しつつ,さらに研究を深化させたい.特に,しばらく準備に時間を要していた,超高擬縮重原子クラスター内での化学反応電子動力学が,稼働状態に入ったので,基礎研究から応用へとつないでいく.また,Marcus理論を超える具体的な分子理論を目指してアルゴリズムの構築を展開する. 多体動力学に関しては,非対称性を取り込んだガウス型基底の時間発展に基づき,簡便であるが現象の本質を記述する方法論の構築、実在分子系への直接適用へと進む. タンパクの動力学に関しては,本年度まで進めてきた電子状態の調査に基づき,シトクロームc酸化酵素のようなタンパク環境下でプロトン移動と電子移動との相互の影響を分子動力学計算により調査する. 全体として,本課題の3年目に入り,引き続き最高のパフォーマンスを維持したい.
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Research Products
(21 results)