2018 Fiscal Year Annual Research Report
Nonadiabatic Electron Dynamics in Chemistry of Charge Separation, Proton Transfer, Electron Transmission, and Huge Electronic-State Fluctuation
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15H05752
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
高塚 和夫 京都大学, 福井謙一記念研究センター, 研究員 (70154797)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高橋 聡 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (20456180)
山下 雄史 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任准教授 (50615622)
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Project Period (FY) |
2015-05-29 – 2020-03-31
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Keywords | 電子ダイナミクス / 非断熱遷移 / プロトン移動 / 電子移動 / 励起状態動力学 / 超高速化学反応 / レーザー化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
分子の電子状態理論(量子化学)は偉大な成功を納め、各領域で応用されるに至っている。その基礎となっている概念は、「電子が原子核の運動に無限のスピードで追随することができて、そのために、電子波動関数は、ほとんど常に定常状態(時間無依存状態)をとっていると考えてよい」とするボルン・オッペンハイマー(BO)近似(1927)である。しかし、主にレーザー技術の発達により、実験研究の最先端では、分子内の電子の動力学までもが追跡できる時代に入っており、新しい理論化学の基礎的枠組みが必要となっている。 本研究では、定常電子状態理論では扱うことができない非断熱電子動力学現象を対象とする。概念としての「超BO化学」を「BO近似からかけ離れているために、新しい現象や法則が出現する化学領域」と定義し、新しい化学概念を発展させる。主たる具体的課題として、(1)光合成の初期過程における水の分解、電荷分離とそれに引き続く電子伝達動力学とプロトンリレー、(2)原子クラスターと電解質溶媒の電子の授受等のダイナミクス、(3)これらの背景にある「超高擬縮重電子状態が原子核運動とカップルして激しく大きく揺らぐ電子状態の化学反応と、それが提供する反応場の解明と設計、(4)生体膜を通過して一方向に輸送されるプロトンポンプの動的電子機構の解明、タンパク質の中のプロトン・電子同時動力学の量子論的動作原理などの解明、(5)イオン化過程非断熱電子動力学などのアト秒レーザーによる計測と、その応用に関わる理論の展開、などを行っている。さらに、相対論的非断熱電子動力学や非断熱電子動力学領域における化学結合論・化学反応論を発展させている。 このようにして、新たな研究領域として「非断熱電子化学」(Time-domain quantum chemistryと称する)を発展させる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
超BO化学、あるいは非断熱電子化学としての、本研究課題に関して、2018年度には以下のような顕著な成果があり、さらに追究を行っている。1)水分子の光分解における電荷分離の動力学的原理と機構の量子力学的解明を目指す中で、背景として存在する化学(分子科学)の基礎概念を提案することができ、引き続き最終目標に向かって進んでいる。 本年度は特に、1.分子衝突によって誘起される電子基底状態における電荷分離動力学の原理を、基底状態に関与する円錐交差を特定し、その動力学的役割を解明することによって、確立した。2.生体膜などでは、電子やプロトンの一方向流れが起きることが知られているが、その機構は知られていない。しかし、科学的には、極めて興味深い。本研究では、一方向性流れを駆動する化学反応機構を発見し、モデル分子系を構築して実際にこのメカニズムが有効に働きうることを実証した。この研究では、研究分担者の山下氏と密接な議論を通して遂行した。 2)超高擬縮重電子状態は極めて頻繁に非断熱相互作用を通して、状態変化を繰り返し、分子内で巨大な電子揺状態ゆらぎを現出させる。我々は、ボロン原子クラスターの高励起状態における超高擬縮重電子状態を具体的に例として調べていく中で、まったく新しい化学結合様式、反応場としての特殊性、電子蓄積の可能性などを明らかにできた。動的電子状態の化学結合論を含め、順次成果を報告し始めている。4.山下は,タンパク質の遅い運動モードとアミノ酸側鎖・水分子の速い運動モードの関係を、原子核と電子の関係に照らし、生命現象の中に潜む非断熱現象を探索する過程で,タンパク質の長時間分子動力学シミュレーションを活用することで、タンパク質の遅いモードと速いモードの間に非断熱遷移に対応する現象が起こり、生命現象の鍵となっている可能性を追求している。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画は、順調に進行していると認識している。本課題研究は順調に深化しているばかりではなく、新たな課題や挑戦的領域の拡張が続いている。最終年度を迎えることもあり、焦点を絞りつつ、さらなる研究を継続したい。まだ論文の形に昇華していないものも、研究グループ内で精力的に取り組みが行われている。一方、当初構想していなかった興味深いく重要な研究課題が登場している。「超BO化学という新しい研究領域を拓く」という意気込みで研究している我々には、分野の大きさや深さが、さらに具体的な形を表したものと受け止めている。例えば、継続研究として 1)溶媒中で起きる励起状態の電子移動反応の基礎理論の展開:Marcus理論のような古典的な理論を越えて、非断熱電子動力学と統計力学の混合表現の展開。 2)古典動力学の多重階層性の動力学の理論の構築: 分子内の電子と原子核の運動のように、ダイナミクスのタイムスケールが階層的に構成されている部分系からなる分子(タンパクなど)や古典系がマクロな系ではいくらでも存在する。このような系でも、古典力学的な非断熱動力学とその顕著な効果が存在することを、数理的に明らかにしたい。 3)非断熱電子動力学系において、原子核の運動を量子化する計算の実現: 原子核の運動も比較的単純な量子力学的波動関数を使って計算できることが分かってきた。また、高塚が開発した量子力学的時間依存変分法理論が、非断熱電子力学理論を含む原子核波束の化学動力学についても強力な手法となることが分かってきたので、その領域の開拓と応用を行いたい。
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Research Products
(24 results)
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[Journal Article] Multiplicity in Long Noncoding RNA Biomedical Sciences2018
Author(s)
1.R. Kurokawa, R. Komiya, T. Oyoshi, Y. Matsuno, H. Tani, M. Katahira, K. Hitachi, Y. Iwashita, T. Yamashita, K. Kondo, R. Yoneda, Y. Yamaoki, N. Ueda, T. Mashima, N. Kobayashi, T. Nagata, A. Kiyoishi, M. Miyake, F. Kano, M. Murata1, N. Hamad, K. Sasaki, N. Shoji
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Journal Title
Biomedical Sciences
Volume: 4
Pages: 18, 23
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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