2015 Fiscal Year Annual Research Report
鉄鋼材料の結晶粒微細化強化に関する学術基盤の体系化
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15H05768
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
高木 節雄 九州大学, 工学研究院, 教授 (90150490)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宗藤 伸治 九州大学, 工学研究院, 准教授 (20380587)
土山 聡宏 九州大学, 工学研究院, 准教授 (40315106)
中田 伸生 東京工業大学, 大学院総合理工学研究科, 准教授 (50380580)
赤間 大地 九州大学, 工学研究院, 特任助教 (80612118)
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Project Period (FY) |
2015-05-29 – 2020-03-31
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Keywords | 結晶粒微細化強化 |
Outline of Annual Research Achievements |
鉄鋼材料では明確な不連続降伏が起こることが特徴であり、CやNを除去すると降伏応力が低下するという事実を基に、これらの侵入型元素による転位の固着が不連続降伏発現の原因とされてきた(Cottrell固着説)。しかし申請者らは、60ppm以下の極微量の固溶炭素の有無によって結晶粒微細化強化係数が大きく変化し、同じ粒経でも純度に応じて降伏強度が変動することを最近明らかにした。これは、鉄鋼材料の分野では従来の常識を覆す発見である。また、鉄鋼材料にはMn,Si,Ni,Cr,Pなどの置換型元素が必要に応じて添加されるが、これまで、60ppm以下の微量の炭素は不純物として無視されて降伏強度に及ぼす合金元素の影響が議論されてきた。すなわち、これらの合金鋼についても、固溶強化や結晶粒微細化強化に関してCやNの影響がより顕著に表れている可能性があるので、CやNをTi(C,N)として完全に固定したInterstitial free steel(IF鋼)を使用して、合金鋼の降伏強度に及ぼす合金元素の影響を根本的に見直す必要がある。本研究は、多結晶のフェライト鋼における降伏点の発現機構を明らかにするとともに、固溶強化や結晶粒微細化強化係数に及ぼす各種合金元素の影響を系統的に調査して、鉄鋼材料の強度設計に関するデータベースを再構築することを目的とする。平成27年度は、研究実施計画に示した通り、研究に使用する材料の溶製と加工熱処理、本研究助成金で購入した走査型電子顕微鏡の性能評価ならびに60ppm程度のCまたはNを含む多結晶鉄について降伏強度に及ぼす低温時効の影響を調査した。走査型電子顕微鏡については、冷間加工した鉄に関して、表面付近の転位をその場観察できることを確認した。また、微量のCやNを含む多結晶鉄では、低温時効材でSpike yieldingという特異な降伏現象が現れることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請書に記載した平成27年度の研究計画は、1)供試材の製造、結晶粒径の調整ならびに引張り試験の実施、2)購入する装置の調整と試行実験、3)三次元アトムプローブならびにナノインデンターに供するサンプルの試作である。 研究で使用する7種類の母合金(合金鋼)、ならびに原子割合が0.02at%となるように成分調整したFe-0.004%CとFe-0.005%N合金については、すでに熱間圧延までの工程を終えて実験に供する準備ができている。Fe-Si系合金について結晶粒微細化強化係数に及ぼす添加量の影響を調査するために、母合金(Fe-6%Si)を用いてSi量が異なる3種類の試料を作製する準備を進めている。一方、Fe-0.004%CとFe-0.005%Nの合金については、結晶粒径制御に関する基礎実験を終え、結晶粒径を約20μmに調整した試料を作製した。そして、100℃または170℃で時効処理した試料について引張り試験を実施し、時効時間が長くなると、降伏後に急激な応力低下を伴うSpike yieldingという現象が現れることを確認した。Spike yieldingは両合金で現れるが、それが発現する時効時間はC系合金の方が短いことが判明した。ナノインデンターを用いた硬さ測定の結果、Spike yieldingが発現する時効条件では、結晶粒内の基地が硬化していることも明らかとなった。また、1例ではあるが三次元アトムプローブを用いた粒界偏析挙動の調査にも成功し、700℃から水冷したC系合金でCの粒界偏析が確認された。さらに、本研究補助金で購入した走査型電子顕微鏡については、性能をチェックするための予備試験を終了し、冷間加工した鉄に関して、表面付近の転位をその場観察できることを確認した。以上のように、平成27年度は、申請書に記載した研究計画の通りに研究が実施されたと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
1.引張り試験の継続的実施ならびにデータの蓄積 Fe-P系、Fe-Ni系ならびにFe-Cr系合金については、結晶粒微細化強化係数と固溶強化に及ぼす元素添加の影響について調査をほぼ終えている。今後は、申請書で提示したSi、Mn、Cu、Al、Sの影響を順次調査していく予定である。Fe-Si系合金は、すべり系が少ないために転位すべりの様子を観察しやすいという特徴を有しているので、多結晶鉄の降伏機構の解明に関する研究でも主たる材料として使用することにしている。本研究助成で購入した走査型電子顕微鏡についてはすでに予備試験を終了しているので、今後、ミクロレベルでの多結晶鉄の降伏挙動に関して、本装置を利用した調査を精力的に展開していく。 2.三次元アトムプローブによる炭素と窒素の粒径偏析調査 結晶粒微細化強化係数の炭素濃度依存性については、粒界に偏析した炭素が粒界での転位の発生応力を高めるという説が提案されており、申請者らは、平成27年度の研究において、700℃から水冷した試料でも炭素が粒界に偏析している事実を確認した。今後は、100~170℃の低温で時効処理した試料について、炭素と窒素の粒界での偏析挙動を調査し、降伏強度との関係を明らかにすることを計画している。 3.ナノインデンテーションによる粒界強度の評価 多結晶α鋼の降伏に関して、“粒界偏析説”では、粒界に偏析した侵入型原子が粒界からの転位の形成を困難にし、その結果として結晶粒微細化強化係数が増大すると解釈されている。この説の妥当性を立証するには、粒界に偏析した侵入型元素が、粒界からの転位の放出を困難にしている事実を示す必要がある。今後は、粒界に偏析した炭素の濃度とPop-in荷重の関係を調査するとともに、同程度の濃度の炭素と窒素を粒界に偏析させた試料を作製して、粒界強度に及ぼす両元素の寄与の差異を明らかにする予定である。
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Research Products
(10 results)