2015 Fiscal Year Annual Research Report
海綿由来細胞毒性物質カリクリンA生合成機構の全容解明
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15H05996
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
江上 蓉子 北海道大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (50758612)
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Project Period (FY) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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Keywords | 生合成 / カリクリンA |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、海綿動物由来細胞毒性物質カリクリンAの生合機構の詳細な解明を目指す。カリクリンAは、1つの分子中にニトリル、テトラエン、スピロアセタール環、リン酸エステル、オキサゾールといった特徴的な構造を有している。pMオーダーの極めて低濃度で強力な細胞毒性を示すことから、この複雑な分子骨格は精緻に組み立てられたことが伺える。本研究課題では、我々が海綿メタゲノムから単離した150 kbにおよぶカリクリンA生合成遺伝子クラスター(cal遺伝子)にコードされる推定生合成修飾酵素の機能解析を行い、生合成経路の詳細を明らかにすることを目指している。平成27年度は、カリクリンAのニトリル生合成機構、C17位の水酸化を担うKRドメインの立体選択性の検討、および、ポリケタイド鎖減炭機構の解明を目指した研究を遂行した。カリクリン生産菌は培養困難であるため、現在、天然物の生合成研究において広く利用されている遺伝子破壊などの生産生物を用いた手法を使うことができない。そこで、本課題では、まず、各種酵素反応を担うと推測されるタンパク質について大腸菌を用いて異種発現した。目的のタンパク質単独ので異種発現を行った場合、今回発現を試みた推定生合成酵素のほとんどが封入体を形成し、活性型のタンパク質として得ることが困難であった。様々な発現条件を検討した結果、シャペロンタンパク質との共発現が効果的であった。さらに、酵素反応に用いる基質として、cal遺伝子の配列情報から予想される生合成中間体の部分構造を有機合成によって調製した。KRドメインについては、得られた酵素および基質を用い、in vitroにおける酵素反応を遂行し、新たに生成物が生じることを確認している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
カリクリンAのニトリル生合成機構について、平成27年度は本反応を担うと推測される2種類のリン酸基転移酵素CalMおよびCalPの機能解析を行った。これらのタンパク質について、大腸菌にて異種発現、精製後、in vitroにおける酵素反応行った。生合成中間体として予想される複数のカリクリン類縁体を基質として用い、様々な条件下における酵素反応を試みてきたが、未だ酵素活性の検出には至っておらずニトリル生合成機構については不明のままである。 また、カリクリンAのC17位のリン酸化機構を明らかにするために、平成27年度は、C17位の水酸化を担うKRドメインの機能解析を行った。まず、生合成中間体を簡略化した基質のSNAC体を合成した。さらに、大腸菌にて異種発現したKRドメインを用いて酵素反応行った。種々の酵素反応条件を検討した結果、酵素生成物を確認している。現段階では、酵素反応効率が低いことから、今後、酵素反応条件の最適化し、反応生成物の構造を決定する。 3つ目に、カリクリンAのポリケタイド鎖減炭機構の解明を目指した研究を進めている。平成27年度は、本反応を担うと推測される酸化酵素CalDについて、大腸菌を用いた異種発現系の最適化を行った。様々な発現条件を検討した結果、シャペロンタンパク質との共発現系において、CalDを可溶性タンパク質として発現できることが判明した。また、得られたCalDについて、アフィニティーカラムを用いて精製した場合、通常の条件下ではタンパク質の自己分解が認められた。種々の検討により、自己分解を抑えたCalD精製条件について確立している。さらに、酵素反応の基質として用いる推定生合成中間体のアナログについても、有機合成ルートを確立している。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、カリクリンAニトリル生合成機構について、平成27年度とは別の方向から解明を目指す。具体的には、生合成中間体の酵素からの切り離しを担うTEドメインの機能解析を行う。カリクリン生合成遺伝子には、PKSおよびNRPSから構成されるカリクリンAの構造には認められない余分なモジュールがコードされている。そこで、このエキストラモジュールによって生合成されると推測可能な中間体の部分構造を有機合成によって調整し、TEドメインがどのように加水分解を行うのか、その機能を明らかにする。さらに、TEドメインによって切り離された末端部分の構造はカリクリンAのニトリル前駆体である可能性が高い。そこで、TEドメインの酵素反応によって得られた産物あるいはこれに相当するカリクリン類縁体を用いて、カリクリン生合成遺伝子クラスターに含まれる生合成酵素と反応を行い、ニトリル生合成機構の詳細について明らかにする。 2つ目に、カリクリンAのC17位のリン酸化機構について、平成27年度に構築したKRドメインと推定生合成中間体のアナログを用いた酵素反応の最適化を行い、生成物の構造を決定する。得られた生成物を用いて、cal遺伝子に含まれる推定リン酸基転移酵素および酸化酵素と反応させ、C17位のリン酸化機構およびスピロアセタール環形成機構について明らかにする。 3つ目に、ポリケタイド鎖減炭機構について、平成27年度に確立した異種発現と生合成中間体アナログの合成経路を用いて、酸化酵素CalDのin vitroにおける機能解析を行う。
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Research Products
(1 results)