2015 Fiscal Year Annual Research Report
偶然性を契機とする人間形成論の探究―九鬼周造と西田幾多郎の比較研究を通じて
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15H06003
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Research Institution | Hokkaido University of Education |
Principal Investigator |
古川 雄嗣 北海道教育大学, 教育学部, 講師 (50758448)
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Project Period (FY) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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Keywords | 偶然性 / 実存 / 生きる意味 / 九鬼周造 / 西田幾多郎 |
Outline of Annual Research Achievements |
九鬼周造の偶然論と「運命」の概念がもつ教育学的意義を、V・E・フランクルにおける「生きる意味」の概念、糸賀一雄と田村一二の障がい者教育思想等との比較において考察し、その成果を『看護学生と考える教育学―「生きる意味」の援助のために』(ナカニシヤ出版、2016年3月)に公表した。 九鬼の「運命」の概念は、そのつどの現在の偶然性を行為によって不断に必然化する実践の論理を示している。これは、フランクルにおける「生きる意味」の実現の論理をさらに緻密化する意義をもつものと解釈された。さらに、糸賀と田村の障がい者教育思想にも、たまたま障がいを負ったという偶然性をいかに目的的に必然化するかという問題が含まれていることが明らかにされた。これらを総合的に解釈することにより、九鬼の「運命」概念が、生における不幸や苦しみを有意味なものに転換し、実存的な「生きる意味」を実現する、一種の道徳哲学を展望するものであることが明らかにされた。 上記の九鬼研究と並行し、本年度は、九鬼の「運命」と類似していると思われる西田幾多郎の「愛」の概念の解釈をめざし、西田哲学の読解に努めた。とりわけ、西田の時間論に注目すると、西田もまた、「無限の過去から我々を限定する因果的なる時の流というものが考えられ、逆に〔中略〕無限の未来から我々を限定する合目的的なる時の流というものが考えられる」として、九鬼の回帰的時間論と類似する理解をもっていることが明らかになった。しかし、九鬼がその「時間の水平面」における偶然性の合目的化を「運命」という概念で指し示すのに対して、西田はそれを二次的な「過程的弁証法」と見なし、むしろ「絶対現在」の「直観的弁証法」をこそ一次的と見ていること、そこに「愛」の概念を見出していることが明らかとなった。この相違をさらに詳細に検証し、その意義を考察することが、今後の課題として浮上した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
西田幾多郎の哲学はきわめて難解であるうえに先行研究も多く、おおむねの理解を得られているものの、より厳密かつ正確な読解のためには、かなりの時間を要している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究成果から、西田が「直観的弁証法」を一次的と見なし、「過程的弁証法」を二次的なその「影像」と捉えてやや軽視していることが明らかとなった。ここに、三木清が批判した西田哲学における実践性の希薄さがあると考えることができる。他方、九鬼は「時間の水平面」と「時間の垂直面」とをあくまでも相補的に捉えている点において、九鬼の「運命」は西田の「愛」よりもより実践的であると考えることができる。したがって、今後は特にここに焦点をあわせて両者を比較することにより、九鬼の「運命」が西田の「愛」をより実践的な概念として補完しうるものとなる可能性を考察していく予定である。
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Research Products
(4 results)