2015 Fiscal Year Annual Research Report
ディラック電子系における非摂動的量子効果の系統的解明
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15H06023
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
荒木 康史 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 助教 (10757131)
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Project Period (FY) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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Keywords | 物性理論 / 半導体物性 / 磁性 / スピントロニクス / スピン波 / 強相関電子系 / 反強磁性体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、物質中の電子の運動(分散関係)が特異な性質を示す、「ディラック電子系」と総称される物質における、相互作用が電子の性質に及ぼす効果、すなわち相関効果について扱っている。平成27年度はこの中でも特に、時間・空間反転対称性が保たれた「ディラック半金属」と呼ばれる物質に焦点を当て、以下の研究を行った。 (1) 電子の持つ電荷間の相互作用(クーロン相互作用)が強い場合の振舞いに関して: クーロン相互作用の非摂動的効果を扱うため、高エネルギーにおける素粒子・原子核の振舞いを解明するために広く用いられている「格子ゲージ理論」の記述を用い、相互作用の強い極限を起点として電子の振舞いを扱った。その結果、相互作用の強い領域では反強磁性秩序を形成して絶縁体として振舞うという、相互作用の弱い領域とは対照的な振舞いが示された。 (2) 電子の持つスピン(磁気モーメント)が、物質中に導入された磁性不純物(クロム、マンガン等)のスピンと強く相互作用する場合の振舞いに関して: 磁性不純物のスピンの振舞いを、微視的に得られた有効場の理論を元に議論した。その結果、磁性不純物の間には電子を介して、スピンの向きを揃えるような実効的な相互作用が働くが、その相互作用は通常の磁性体とは異なり、スピンの向きだけでなく位置関係にも依存するという特異な性質を持つことが示された。これにより、磁化配位はスピンが一様に揃った強磁性だけでなく様々な励起状態が予想され、またスピンの揺らぎ(スピン波)の伝播も通常の強磁性体とは異なる、異方的な振舞いを示すことが解明された。 このような相関効果はゲート電圧やキャリアのドープ量に依存するため、ディラック半金属の性質を相関効果を介して変化させることができ、トランジスタやメモリーなどデバイスへの応用も期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、ディラック電子系における、電子の持つ電荷・磁性に働く相互作用の効果を系統的に理解することを目標としている。平成27年度はその起点として、時間・空間反転の対称性が共に保たれており、理論的にも扱いやすいディラック半金属を扱った。電荷間のクーロン相互作用、スピン間の交換相互作用それぞれに関して、「研究実績の概要」の(1)(2)に示した成果が得られ、それらの結果を国際会議や学術誌において発表した。これらの知見を元に、対称性が保たれていないようなより広範な「ワイル半金属」や、ディラック電子系の表面・界面の性質を扱うことが可能となり、現在研究が進行中である。 以上の理由から、平成27年度の本研究課題の進捗はおおむね順調であると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は前年度にディラック半金属に関して得られた知見をもとに、(a) より広範な「ワイル半金属」における相関効果、および (b) 2次元の表面・界面における現象について考察する。 (a) ワイル半金属はディラック半金属と同様に、荷電子帯と伝導帯が一点で交わるようなバンド構造を持つが、時間・空間反転対称性の破れによりバンドの縮退が解けているという特徴を持つ。本研究では特に、近年TaAs等の系において観測されている、結晶構造や試料の形状などにより空間反転対称性が破れたようなワイル半金属に着目する。このような系において現れうる磁気秩序を前年度に用いた手法を踏まえて計算し、ディラック半金属との違い、新奇な効果の有無について検証する。その上で、磁性体における回路素子・量子情報技術への応用の際に情報の担い手となりうる、磁壁(ドメインウォール)や渦などのトポロジカル秩序に関して、その安定な配位、およびダイナミクスについて計算を行う。 (b) トポロジカル物質の一種であるトポロジカル絶縁体は、表面に2次元のディラック半金属状態を持ち、近年ではトポロジカル絶縁体-強磁性体などのヘテロ構造におけるスピントロニクスにその特性が応用されつつある。ワイル半金属も「フェルミアーク」と呼ばれるトポロジカルに特異な表面状態を持つため、表面・界面での輸送や磁化ダイナミクスに影響を及ぼす可能性がある。これを踏まえ、本研究ではディラック・ワイル半金属の表面・界面における電子相関の効果、特に磁気秩序や磁化ダイナミクスに及ぼす効果について検証する。試料の厚さを変えることによる、2次元的振舞いと3次元的振舞いの間のクロスオーバーの有無について考察し、それにより渦・スキルミオン等のトポロジカル励起が安定に存在するか否かに関して提言を与えることを目指す。
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