2015 Fiscal Year Annual Research Report
19世紀フランス詩の神話的形象にみる宗教的混淆-高踏派からランボーへ
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15H06115
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
塚島 真実 東京大学, 総合文化研究科, 教務補佐員 (80761402)
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Project Period (FY) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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Keywords | 仏文学 / ランボー / 高踏派 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、フランスの19世紀、特に1850年代から1870年代の、高踏派からランボーにいたる作品におけるヘレニズムとキリスト教の混淆を明らかにすることを目的としている。この過程で、ランボーに見られる複雑な宗教意識の形成過程における役割という観点から、未だ研究が不十分な高踏派の理解を刷新することをも意図している。 研究初年度の平成27年度は、ランボーの初期韻文詩に焦点を当てた。ランボーの初期の作品は高踏派の影響を受けており、彼らの作品の表現や韻の借用・模倣を経て独自性を構築していったと考えられる。ランボーの比較対象としては、バンヴィル、ルコント・ド・リールといった高踏派の巨匠と比べると、まだ十分にランボーの作品との関連が分析されていないグラティニーに注目した。 『現代高踏派詩集』に掲載された数詩篇だけでなく、ランボーが読んだと思われる『狂える葡萄』『金の矢』といったグラティニーの詩集を分析したところ、高踏派に典型的とされる様式美・造形美と、日常生活から汲み出した抒情性の混交が洞察された。グラティニーのこうした特徴が、美を追求する高踏派の詩学を吸収し、その韻律を手本としながらも独自の表現を追求していたランボーの興味を引いたものと思われる。本研究の最終目的である、これらの詩人たちにおける宗教的混淆を明らかにする一端として、ギリシア神話の神々の描写から、神話的形象の身体描写における神秘性と卑俗性の融合をランボーの特徴と考えた。この分析の成果の一部をまとめ、学会誌に発表した。 上記のようなランボーにおける神話的形象の描かれ方は、神的なものを人間的なものへ引き寄せ同化へ向かわせる表象と理解される。神的なものと人間的なものと境目として身体が重要性をもっていると考え、引き続きランボーにおける身体描写を切り口として研究を進めていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の成果の一部を学会誌『フランス語フランス文学研究』にて発表することができた。 一方で、年度末にフランスでの資料調査およびランボーのシンポジウムへの出席を予定していたが、諸事情により断念した。シンポジウム欠席によりフランスの研究者との交流機会を逸したのは残念であった。だが、渡仏予定であった期間内に国内の研究会に参加することができた。ここでは、ランボーに限らず別の詩人やフランス文学以外の研究者との交流機会があり、また19世紀の音楽や美術といった諸芸術と文学の関連を考察する視野を改めて開く契機となった。貴重資料の入手方法についても参考となる情報を得ることができた。また、渡仏の経費分を来年度購入する予定であった物品および書籍や物品の購入に充てたので、当初の計画とは異なる手順ではあるが研究は進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる平成28年度はイエス像に焦点を当てる。前年度の成果を踏まえ、ギリシア神話の神々の中にあるイエス的要素にも注意しながら、19世紀当時に歴史学の発展と共に人間化が強まっていくイエス像が、高踏派やランボーの作品にどのように反映されているかを考察していく。その上で、ランボーにおける、キリスト教に対抗するものとしてのヘレニズムの可能性と限界を確定したい。 夏と春に渡仏し、国立図書館を中心に資料調査を行う。また、改築を経て昨年オープンしたランボー美術館にも資料調査に赴く予定である。 研究の成果は、国内外の学会での口頭発表や論文投稿により発信していく。
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Research Products
(1 results)