2015 Fiscal Year Annual Research Report
バキュロウイルスの全身感染効率を規定する新たな分子メカニズムの解明
Project/Area Number |
15H06155
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
國生 龍平 東京大学, 農学生命科学研究科, 特任研究員 (90756537)
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Project Period (FY) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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Keywords | 昆虫病理学 / バキュロウイルス / カイコ / BmNPV / 全身感染 |
Outline of Annual Research Achievements |
Actin rearrangement-inducing factor 1 (ARIF-1)はチョウ目昆虫特異的に感染するバキュロウイルスに保存された4回膜貫通型タンパク質である。昨年、私達はARIF-1が宿主昆虫への感染においてウイルスの全身感染効率を向上させる機能を持つことを明らかにしたが、その詳細なメカニズムは不明であった。そこで本研究では、ARIF-1が作用する分子メカニズムを解明し、それをin vitroの感染実験系で実証することを目標とする。 H27年度は、ARIF-1に様々な変異を導入した組換えウイルスを用いることで、ARIF-1の機能に重要なアミノ酸領域の特定を試みた。その結果、ARIF-1の機能に重要であるアミノ酸領域を2箇所特定し、さらにそのうちの1箇所について、その機能に必須なアミノ酸残基を5つ明らかにした。また、ウエスタンブロッティングによる解析の結果、ARIF-1は細胞膜画分で検出されること、感染の進行に伴い何らかの修飾を受ける可能性があること、機能欠損変異を導入したARIF-1においては修飾の割合が著しく低下することが判明した。以上の結果から、細胞内外のアミノ酸領域を介して修飾を受けることがARIF-1の機能に重要であると推測される。また、ARIF-1の機能をin vitroで実証するための基盤として、組織培養系および3D培養系の確立を目指した。しかしながら、現時点では摘出した気管組織や培養細胞の凝集体において、ウイルス感染の内部への進行がほとんど見られなかったことから、培養条件等をさらに検討する必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H27年度はまず、C末端GFP融合ARIF-1発現BmNPV(ARIF-GFPウイルス)をベースにARIF-1を部分的に欠損させた組換えウイルスを新たに作製し、フェノタイプへの影響を調査した。その結果、ARIF-1の細胞外ループ2およびC末端のPro-rich領域がARIF-1の機能に重要であることが判明した。また、さらなる解析の結果、細胞外ループ2においてチョウ目特異的NPVで完全に保存された5つアミノ酸残基がARIF-1の機能に重要であることが明らかになった。ARIF-1の機能に重要なアミノ酸領域を特定できたことは、ARIF-1の作用機序の解明へとつながる大きな進捗であると言える。 次に、感染細胞および組織より得られたタンパクサンプルを用いてウエスタン解析を行った。まず、ARIF-GFPウイルス感染BmN細胞を経時的にサンプリングし、抗GFP抗体を用いてウエスタンブロッティングを行ったところ、ARIF-1は細胞膜画分にて検出された。また、感染の進行に伴いバンドシフトが見られたことから、ARIF-1は感染の進行とともに何らかの修飾を受ける可能性が示唆された。さらに、C末端欠損ウイルスや点変異ウイルスにおいてはバンドシフトの程度が大きく低下することが明らかになった。同様の結果はARIF-1が機能する主要な組織である気管由来のサンプルからも得られたことから、ARIF-1は細胞外ループ2の保存されたアミノ酸残基およびC末端のPro-rich領域を介して何らかの修飾を受け機能すると推測される。 また、H27年度はARIF-1の機能をin vitroで実証するための基盤として、組織培養系および3D培養系の確立を目指した。しかしながら、現時点では摘出した気管組織や培養細胞の凝集体において、ウイルス感染の内部への進行がほとんど見られなかったことから、培養条件等をさらに検討する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
H27年度の研究において、アミノ酸の点変異や部分欠損により機能欠損したARIF-1を発現する組換えウイルスを作製した。そこでH28年度は、これらのウイルス感染組織を用いて共免疫沈降を行うことで、ARIF-1と結合し、その機能に重要なタンパク質を回収する。ARIF-1は気管で重要な機能を果たすと考えられるため、気管を用いて免疫沈降を行う。回収したタンパク質を質量分析計で解析することにより、ウイルスあるいは宿主由来のどのタンパク質であるか同定する。さらに、同定したARIF-1結合タンパク質の機能解析を行うことで、ARIF-1が全身感染効率を向上させる分子メカニズムの解明を試みる。BmNPVとカイコはどちらもゲノム情報やトランスクリプトーム情報、cDNAクローン等の豊富な遺伝資源が利用可能であり、また遺伝子組み換え体の作製も可能である。これらの資源や技術を活用することで、ARIF-1結合タンパク質の発現パターンや細胞内局在、カイコ組織における本来の機能を明らかにするとともに、ARIF-1が結合タンパク質に与える影響を調査する。 また、H27年度は組織培養系および3D培養系の確立を目指したが、系の確立には至らなかった。考えられる原因として、①組織培養の培地が不適である、②組織の摘出自体がin vivoの感染進行の模倣を不可能にしている、③培養細胞においてはARIF-1と相互作用する宿主タンパク質が発現していない、等が考えられる。そこで、H28年度は初代培養用の培地による組織培養を試し、組織培養条件の改善を図る。また、摘出組織にウイルスを感染させるのではなく、カイコ幼虫体内でウイルスを感染させた後に感染組織を摘出し観察することで、より自然な感染条件下で組織摘出の影響を評価する。また、3D培養についてはARIF-1結合タンパク質の解析結果を元に、方針を検討する。
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Research Products
(1 results)