2015 Fiscal Year Annual Research Report
概日ペースメーカーニューロンにおける細胞内pHリズムと活動電位リズムの相関解析
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15H06232
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
森岡 絵里 富山大学, 大学院理工学研究部(理学), 助教 (80756122)
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Project Period (FY) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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Keywords | キイロショウジョウバエ / 体内時計ニューロン / 細胞内pH / イメージング |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ショウジョウバエ体内時計ペースメーカーニューロン(LNv)において観察された細胞内pHリズムが、活動電位リズムをはじめとする概日振動機能に果たす役割を明らかにすることを目的として、まず、LNvの活動電位を記録・解析する電気生理実験装置のセットアップに取り組んだ。現在、除振台と蛍光正立顕微鏡の移設、ノイズを除去するためのステンレスメッシュによる電磁シールドの設置などを行っている。 次に、細胞内pHリズムがLNv特異的であるかどうかを検証するために、非‐時計ニューロンであり、睡眠覚醒リズム制御に関与するドーパミンニューロン特異的な発現ドライバーを用いてdeGFP4を発現させたショウジョウバエ系統を作出し、その中枢神経系組織培養を用いてpHイメージングを行った。その結果、ドーパミンニューロンにおいては明瞭なpH振動は観察されず、ほぼ一定の細胞内pHを示したことから、細胞内pHリズムがペースメーカーニューロン特異的であることが示唆された。 また、ショウジョウバエの歩行活動リズムは、最も一般的に用いられる概日行動リズムの指標であるが、本学には、これまでわずか24チャンネルの手製の計測装置があるのみであった。そこで、新たにコマーシャルの活動モニターを導入することにより、合計108チャンネルの歩行活動自動計測システムのセットアップを実施し、複数の変異体系統の行動リズム変異の効率的な解析を可能とした。このシステムを用いて、細胞内pHリズム形成に関与すると考えられる4候補遺伝子に対するRNAiとDicer2を、LNv特異的に共発現させたノックダウン系統の歩行活動リズム解析を行った。その結果、ミトコンドリアのカリウム‐プロトン交換輸送体LETM1をノックダウンした系統において、恒暗条件下における歩行活動リズム周期が有意に長周期化することが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画の第一段階である電気生理実験装置のセットアップにおいては、現在、電気信号増幅器やデータ取得装置の設置、除振台や蛍光正立顕微鏡の移設、ノイズを除去するための電磁シールドの構築などのセットアップを行っている段階である。本研究は平成27年度秋スタートであることから、このペースは計画の範囲内である。次年度の早い段階でセットアップを完了する見込みであり、今後は、その電気生理実験装置を用いて、ショウジョウバエ体内時計ペースメーカーニューロン(LNv)におけるイメージングおよびwhole-cellパッチクランプ解析を行い、細胞内pHリズムと活動電位リズムの相関関係を明らかにする予定である。 電気生理実験装置のセットアップに加え、ショウジョウバエ歩行活動自動計測システムのセットアップを実施した。ショウジョウバエの歩行活動リズムは、最も一般的に用いられる概日行動リズムの指標であるが、本学には、これまでわずか24チャンネルの手製の計測装置があるのみであり、多くの変異体系統のリズム変異を解析するには非常に長い時間を必要としていた。そこで、新たにコマーシャルの活動モニターを導入することにより、これまでの4倍以上の規模の合計108チャンネルの歩行活動自動計測システムのセットアップを完了した。これにより、細胞内pH調節に関与すると考えられる候補遺伝子に対するノックダウン系統をはじめ、複数の系統をより効率的に行動リズム解析することを可能とした。 また、非‐時計ニューロンとして、ドーパミンニューロン特異的に蛍光pHセンサータンパク質deGFP4を発現させた系統を作出し、6個体、計12個のドーパミンニューロンにおいて、LNvと同様にpHイメージングを実施した。その結果、調べたすべてのドーパミンニューロンは明瞭なpH振動を示さず、細胞内pHリズムがLNv特異的であることが示された。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、前年度に引き続き、whole-cellパッチクランプ法によるショウジョウバエ体内時計ペースメーカーニューロン(LNv)の活動電位解析に必要な電気生理実験装置のセットアップを行う。これまでの実験により、LNvの自発的神経発火頻度が細胞外pH依存的に変化し、この変化がLNs特異的ミトコンドリアLETM1ノックダウンにより抑制されることが示唆されている。そこで、セットアップした実験装置を用いて、蛍光イメージングにより細胞外pHを変化させた場合の細胞内pHを測定すると同時に、自発的神経発火頻度の記録・解析を行い、細胞内pHとニューロン活性の関係性を明らかにする。LETM1ノックダウン系統においても同様の解析を行い、LETM1が細胞内pH調節と神経発火頻度変化に及ぼす影響を調べる。 さらに、時計遺伝子の変異体をバックグラウンドに持つ系統を作出し、これを用いてLNvの細胞内pH測定や電気生理的解析を行うことにより、時計遺伝子の転写翻訳リズムと細胞内pHリズムの関係性を検討する。また、LNvにおけるコアの時計タンパク質の時刻依存的な発現の免疫組織化学的解析を行い、LETM1および細胞内pHが時計遺伝子の分子振動に及ぼす影響について明らかにする。 また、細胞内pHリズムがLNvの既知の概日制御機構に及ぼす影響について検討する。ショウジョウバエの概日リズム制御機構においては、概日光受容器であるクリプトクロム(CRY)が、分子時計リセットするのに加え、分子時計を介さず直接的に光によりLNvの自発的神経発火を制御していることが明らかとなっている。そこで、コントロールおよびLETM1ノックダウン系統を用いて、異なるpH条件下における光による神経発火頻度増加応答を解析し、細胞内pHがCRY機能に及ぼす影響とそれに対するLETM1の関与について検証する。
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Research Products
(1 results)